思想

ソローの葉的世界観、言語の原風景

葉(leaf) 前頭葉(Frontal lobe) ソローの『ウォールデン』の終章「春」のなかの一節に、日本語では注意を向けにくい、「葉」をめぐる、私にとっては非常に興味深い、ある世界観、「葉的世界観」が語られている。 地球でも、動物のからだでも、内部を見れ…

揮発性の真理、度を–超すこと!(The volatile truth, Extra vagance!)

顔(Face) 辺見庸の「ミルバーグ公園の赤いベンチで」のなかに頭(顔)のとても小さな女と顔のない大きな男が登場する。頭(顔)のとても小さな女は右手の人さし指を胸のあたりにそっと立てて無言のあいさつをするだけだ。辺見庸は、顔のない大きな男に顔の…

アメリカホドイモと詩の時代(Apios americana & the reign of poetry)

Apios americana or Apios tuberosa ソローの『ウォールデン、森の生活』の後半に、北米土着のアメリカホドイモ(アメリカ塊芋, potato bean, hopniss, Indian potato or groundnut, Apios americana or Apios tuberosa)について、その滅びゆく運命を北米原…

香りのよいレンタカンバ(a sweet-scented black-birch)?

山田正雄さんのソローに関するある論文には、「ウォルデン池畔でソローが観察した哺乳類、爬虫類、植物、魚類、鳥類、昆虫類の名称一覧リスト」が掲載されている。それによれば、『ウォールデン、森の生活』に登場する植物類は72種、鳥類は60種、哺乳類・爬…

野生の舌

何度も凍結と解凍を繰り返したエゾノコリンゴ(蝦夷小林檎, Manchurian crab, Malus baccata var. mandshurica)の果実(2009年12月23日撮影) 満開の蝦夷の小林檎の下で(2008年5月16日撮影) ソローは「野生りんご」(Wild Apples, 1862*1)と題した林檎の…

殺す技術、生かす技術

asin:4047913243 ブルース・チャトウィンは、流浪の狩人を「ノマド」とみなす世間の誤解を正すために、狩猟は動物を殺す技術であり、牧畜は動物を生かして役立てる技術であり、「正統のノマド(遊牧民)」は移動する牧畜者であると述べた(『どうして僕はこ…

スーザン・ソンタグとパティ・スミス

asin:475714198X 木幡和枝訳、スーザン・ソンタグ著『同じ時のなかで』(NTT出版、2009年)。 安寧は人を孤立させる。孤独は連帯を制限する。連帯は孤独を堕落させる。(339頁) まるで多元連立方程式のように命題を連打して、ソンタグは自身をどこにどう位…

ソンタリング(Sauntering)と詩人

asin:4861100305 ソローの遺作『ウォーキング』(1862年)を読む。ソローは中世の巡礼に由来する聖なる歩行、「ソンタリング(Sautering)」を喚び出しながら、人間にとっての「歩く」ことの根源的な意味に迫ろうとする。 これまでの生涯を通じて、ウォーキ…

ウォールデン1:湖と朝と実在

支笏湖 森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫) / 森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫) 支笏湖畔で、150年前にウォールデン湖畔の小屋で綴られたソローの『ウォールデン、森の生活』を30年ぶりに読み直し始める。30年前に理解したつもりになっていた老成…

チャトウィンの歩く哲学

ドイツの映画監督ヴェルナー・ヘルツォーク(Werner Herzog, 1942年生まれ)との出会いを綴った散文のなかで、ブルース・チャトウィンは二人が共有する<歩くこと(walking)>にまつわる信念あるいは哲学について次のように語っている。 そして(ヘルツォー…

ネマディ

Bruce Chatwin Home ブルース・チャトウィン(Bruce Charles Chatwin, 1940–1989年)はかつてネマディと呼ばれるサハラ砂漠の狩猟民族の生き残りに会うためにモーリタニアを訪ねた。チャトウィンが実際に会ったのは、スーダン木綿の切れ端を縫い合わせた小さ…

あなたは日本人ではありません

asin:4894346737 そうか、森崎和江さんはそんな「旅」を続けてこられたのか、、。 もしもし日本人を自称しておいでのあなた。あなたはお気づきではないようですが、あたなは日本人ではありません。だって海の匂いがするもの。あなたの骨には貝がらがついてい…

とび立てば、空は、やみというのに

人は一生に何度「生まれる」のだろうか? asin:4894346737 森崎和江さんは子育てが終わった頃に「ふたたび旅へ」(1976年)という非常に印象的な文章を書いている。若い頃には人は二度生まれるものと感じていた、という。すなわち、人は一度は母の胎内から生…

黒の専門家

asin:3775718591 偶然手に入れた『BLACK PAINTINGS』という画集をずっと眺めている。ロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg, 1925–2008)、アド・ラインハート(Ad Reinhardt, 1913–1967)、マーク・ロスコ(Mark Rothko, 1930–1970)、フランク…

極小の私的戦線

asin:4062752506 ……あなたはどこに立脚してものを主張するのか、ぼくはどこに足をつけて表現するのか、それが大事だと思います。立脚する場の実相は、いかに貧寒としていても、隠すべきではない。(中略)ぼくはいま、ぼく以外のだれをも代表せずにお話しし…

生き延びる理由

asin:4043417012 記憶というものを、私たちはなめてかかっていると思う。五十年前とは、かなり多くの人びとにとって、昨日なのだ。(辺見庸「ある日あの記憶を殺しに」、『もの食う人びと』角川文庫、1994年、335頁) 人生が特異な時間の経過であり、掛け替…

荒野の庭2

東京漂流 (朝日文庫) それでも、やっぱり、私は、庭を持たないせいかもしれないが、丸山健二の白い薔薇が一際美しい田舎の大きな庭よりも、たとえ都市の真っ只中であっても、藤原新也が鉢に雑草を植えたベランダのような、らしくないぎりぎりの空間の方に惹…

人間の最低生存条件は一定数のなかまなのです

asin:B000JARIRE 谷川雁の臥蛇島紀行「びろう樹の下の死時計」が収録された昭和34年に出版された『工作者宣言』(中央公論社文庫)。もちろん、古書。京都の全適堂書店から届いた。早速「びろう樹の下の死時計」を読みはじめる。抽象画と具象画を高速で交互…

故郷は時のなかに

『宮本常一 写真・日記集成(上巻)』 『宮本常一 写真・日記集成(下巻)』 『宮本常一 写真・日記集成(別巻)』 『宮本常一 写真・日記集成 附録』 asin:462060609X 宮本常一の写真を見ながら、故郷はあるとすれば、<時間>のなかにしかない、という突飛…

カタカナのニンゲン

ツタ(蔦, Japanese creeper or Japanese Ivy, Parthenocissus tricuspidata) ガンジス河の河原で人間の死体が粗大ゴミのように無造作に次々と燃やされる光景を見続けたり、中洲に流れ着いた人間の死体に食らいついていた犬たちに襲われて命を落としそうに…

羊の角に触れよ

asin:4163685308 藤原新也が、麻原彰晃こと松本智津夫の郷里八代を歩き、実兄満弘に会い、そして熊本県庁の水俣病対策課への度重なる接触を通じて、オウム真理教事件の病根を「われわれの問題」として一部解いていたことを知らなかった。目に焼き付け、足に…

乱場(ナンジャン)

asin:400430542X 姜信子『日韓音楽ノート---<越境>する旅人の歌を追って---』(岩波新書、1998年)に「乱場(ナンジャン)」という魅力的な言葉が登場する。それは元来、「市が立つときに立ちあらわれる混沌------活気に満ちた空間------をさす韓国伝統の…

歴史する(doing history)

『風の旅人』 16号 - FIND the ROOT 「世界」と「人間」のあいだ - HOLY PLANET 他人事のように実体化されがちな歴史にサヨナラを告げて、親密な語りに積極的に巻き込まれながら、ぼくらは日々刻々と歴史する(doing history)存在なのだ、と主張した今は亡…

喰い残しの歌

『風の旅人』 37号 - FIND the ROOT 永遠の現在 - 時と悠 新約聖書のヨハネによる福音書で描かれた世界のはじまりの光景には前史がある。旧約聖書の創世記である。偶然のような必然だったが、『風の旅人』(2009年6月、37号)に掲載された姜信子さんのエッセ…

種(たね)に根づく

asin:4167340062 こんな変わった言葉がある。 人は土地に根づくのではなく、種に根づく(佐野眞一『大往生の島』85頁) これは周防大島に昔から伝わる島民の「華僑的」とも言える海洋民的性格をよく表した言葉だという。特に沖家室漁民には、魚を追ってどこ…

命がけ、唄を探す

asin:4894346575 『森崎和江コレクション 精神史の旅』(全五感)の『1産土』の解説を姜信子さんが書いている。「果てしなく血を流し生まれ変わり産み直し書きつづける、旅」と題した凄まじい文章だった。題名通りの「旅」の人としての先輩にあたる森崎和江…

正しい死

目的のない旅を放浪というが、人生が旅であり、旅が人生であるような生活を送る者にとっては、どうしたって「死」が究極の目的であるという厳然たる事実から目を背けるわけにはいかない。死という目的に向かってどう歩むか。その歩み方には正しい歩み方と誤…

死のレッスン

asin:4022643188 藤原新也は24歳で初めてインドを放浪したとき、バングラデシュの難民キャンプで看護婦グリアが我が身の安全を顧みることもなくコレラで死にかけた子供にすでに無駄とも思える人工呼吸を執拗に施し続けるという彼の理解を越える現場に遭遇し…

南無さんのブロガー脱皮論の地平

「太平洋イルカクルーズ」を読む(『南無の日記』2009-10-03) から マージナル・ソルジャーを超えてゆくもの−1(『砕かれた街』2009-10-03) に飛んだ。 図らずも、南無さんによる「ブロガー脱皮論」の核心に触れることになった。大変面白かった。 後者で…

マルセル・デュシャンのヴェルヴェットのズボン

学生の頃、マルセル・デュシャンにはまり、色んなことを学んだ。実践するのは難しいことばかりだが、要するに、いつどこででも、ただ在るだけでいなかる所有をも超えた至高の快楽を持続すること。全感覚を総動員して目の前の世界を深く広く捉え直し、無限を…