植物であることの幸福

Le bonheur d'être plante 最近私の中には、時代も国も異なる二人の植物学者がいる。彼らの「眼」を借りて、そしてカメラの「眼」を借りて、植物の存在の意味を学びほぐして(unlearn)いる。同じ植物学者でも、カール・ブロスフェルトはいわば植物の屍体を…

三途の河と赤ん坊

家族がとあるアウトレットモールで買物する間、お父さんは自販機で缶珈琲ではなく、タリーズ(TULLY'S COFFEE)でエスプレッソを買って、広場のベンチに腰掛けてちびりちびり飲みながら、もう何度目だろう、一冊の本のある頁のある箇所を目で追っていた。そ…

タイム・スリップ

西蔵放浪 (朝日文芸文庫)作者: 藤原新也出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 1995/06/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (14件) を見る 今から40年あまり前、1960年代末、「外国に行くならアメリカかヨーロッパという風潮があっ…

生と死の輪舞

西蔵放浪 (朝日文芸文庫)作者: 藤原新也出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 1995/06/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (14件) を見る 「人間として退化した今を持った一日本青年が、過去に向かって人間としてより進歩的である…

祈りの旅、心の家:小野寺誠『ユーラシア漂泊』

ユーラシア漂泊作者: 小野寺誠出版社/メーカー: 青灯社発売日: 2009/07/08メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 3人 クリック: 23回この商品を含むブログ (4件) を見る 1939年生まれの「バックパッカー」小野寺誠の68歳の旅の記録が面白かった。 ……外国の…

聖なる生業

asin:4759267247 佐川光晴著『牛を屠(ほふ)る』(解放出版社、2009年)が非常に面白かった。内澤旬子の労作『世界屠畜紀行』(解放出版社、2007年刊)も面白かったが、ある意味でそれ以上に面白かった。大宮市営屠畜場での十年半におよぶ体験に基づいて、…

目と境界

ユリ(百合, Lily, Lilium) コスモス(秋桜, Cosmos, Cosmos bipinnatus) 枯死芸(Death Art) 空(The sky) "Death" is "Power"(Memento-Mori) "Keep drifting, keep walking."(Memento-Mori)

「長崎に恋をした」東松照明の「町歩き」

長崎曼荼羅―東松照明の眼1961~ (長崎新聞新書 (016)) 長崎新聞社が出している長崎新聞新書016が本書『長崎曼荼羅 東松照明の眼1961〜』(2005)である。コンパクトながら、東松照明という写真家の神髄が伝わってくる良書である。東松照明は写真もよいが、そ…

風のフリュート、涙の扉

風のフリュート (集英社文庫) ジャンパーのポケットに藤原新也の『風のフリュート』(集英社文庫)を入れて皮膚科に向かった。二週間ぶりだった。待合室で診察を待つ三十分ほどの間、身が引き締まるのを感じていた。荒涼として、凍てつく風が吹きすさび、ま…

マサオ君の散歩の裏側

The First Person Singular (Studies in Phenomenolgy and Existential Philosophy) ナイジェリアの男は素敵だなあ、、(これはホントに哲学者アルフォンソ・リンギスの本。) A Thousand Rooms of Dream and Fear 死んだ男の語りにぞくぞくするなあ、、(邦…

坂口恭平の「巣」の思想

坂口恭平『TOKYO一坪遺産』(春秋社、2009年6月) 私がもっとも注目する建築家の一人である坂口恭平さんが『0円ハウス』(asin:4479391673, asin:4898151175, asin:4899980884)に続いて、独創的な視点からの斬新な調査結果に基づいた新たな建築ルポルター…

最後の琵琶法師、山鹿良之(1901–1996)

琵琶法師―“異界”を語る人びと (岩波新書)兵藤裕己(Hiromi Hyodo, 1950–)著『琵琶法師―<異界>を語る人びと』(岩波新書)を迷わず買った。テーマもさることながら、帯表の「演唱の実像を伝える稀少な映像DVD付き」、つまり付録に俄然惹かれた。子供の頃か…

皮膚科の待合室で

一週間服用を続けた抗アレルギー薬の新しい組み合わせ(→ 「オキロット、ダレン、アタラックス」)は効果があった。セレスタミンを服用した場合(→ 「アレロック、セレスタミン」)のように全身のかゆみは完全に治まりはしないが、ほとんど気にならない程度…

シナノキの木陰で想う

サフラン公園入口のシナノキの作る木陰がいつの間にかずいぶんと大きくなった。暑い日の散歩では、そこに辿りつくとホッと一息つく。風太郎はまっさきに水道に向かったものだった。最近はしばらく木陰に佇んでから、すぐ傍の東屋で腰を下ろし、人がいれば話…

for my sake

Ink-Keeper's Apprentice作者: Allen Say出版社/メーカー: HMH Books for Young Readers発売日: 1994/10/24メディア: ハードカバー クリック: 1回この商品を含むブログ (15件) を見る 心の底では母のためにアメリカ行きを決心したキヨイは、しかし、あくまで…

砂漠の聖性

砂漠作者: J・M・G・ル・クレジオ,望月芳郎出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2009/01/20メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (10件) を見る ル・クレジオの『砂漠』(河出書房新社)の表紙を飾る「砂漠の聖性」を喚起させる…

砂漠

砂漠 今年初めに復刊されたル・クレジオの『砂漠』を買った。砂漠に惹かれる。どうしてだろう。映画『アラビアのロレンス』のなかで、ロレンスが砂漠に惹かれる理由をたしか「清潔だから」と答えていたことを思い出す。そして、たしか砂漠は陸の海であると言…

アモシュトリに倣いて

今日は古代アステカの「アモシュトリ」amoxtoli と呼ばれていた一種の折り本を想像しながら、3冊のアコーディオン型の本を作った。出来上がりはメビウスの帯を彷彿とさせる、表と裏がつながった循環する本になった。 10年以上前のダンボール紙を使ったヘン…

書物の翳を愛でる同志として…

東京外国語大学出版会 書物に対していい加減な態度を取り続けてきた私のような人間にはもったいない粋なメッセージとともに一冊の本が届いた。 書物の翳を愛でる同志として… R 俺、書物の翳、愛でてたかな? そう言われると、そういう気がしないでもないが…

ページネーションの実験

『アフンルパル通信』は旧来の出版物のどのジャンルからも逸脱する異形の「書物」である。短冊を彷彿とさせる他に例を見ない縦長の判型である。見開きがちょうどA4サイズほどで、文庫本の見開きを縦に二つ並べた大きさにほぼ等しい。見開いたときに、文庫…

スーザン・ブラックモア『「意識」を語る』

中山さん(id:taknakayama)さんが、三上さん、本業(哲学)の方はどうなってますか? という暗黙のメッセージを籠めて「意識」に関する面白い本を送ってくれた。 「意識」を語る作者: スーザン・ブラックモア,山形浩生,守岡桜出版社/メーカー: エヌティティ…

『冬のエフェメラル』から『雪華圖説』へ

マジシャン(magician)、いや、マセマティシャン(mathematician)の山内さん(同僚の数学者)が、入学式終了後に、「三上先生、スプリング・エフェメラルならぬ、ウインター・エフェメラルご存知ですか?」と悪戯っぽい目を一瞬光らせて声をかけてきた。「…

健全な資本主義すら不健全だったのか

日本に健全な資本主義を根付かせようとした渋沢栄一(1840–1931)、それを継承しながら進んで没落する一方で真っ当な学問の土壌を耕した孫の渋沢敬三(1896–1963)、そしてその狭間にあって遊蕩に身をやつし廃嫡の憂き目にあった渋沢篤二(1872–1932)。 渋…

遠い「山びこ」

遠い「山びこ」―無着成恭と教え子たちの四十年 (新潮文庫) 無着の教育は、山元中学校の正門前に立つ二宮金次郎の銅像をいわば半面教師とするものだった。その銅像が象徴する忍耐と勤勉のなかにかくされたごまかしを、子供たちと一緒になってあばきだしていく…

現代の「寒山拾得図」?

あぶく銭師たちよ!―昭和虚人伝 (ちくま文庫) 佐野眞一は早くも1989年に「バブル時代」を総括する本を世に問うた。ただし、当時はまだ「バブル」という言葉は人口に膾炙しておらず、「あとがき」の中でも「土地と株に狂奔し、座標軸を失って、空騒ぎのイベン…

ブラックマーケット

第三の男 [DVD] FRT-005出版社/メーカー: ファーストトレーディング発売日: 2006/12/14メディア: DVD購入: 3人 クリック: 71回この商品を含むブログ (53件) を見る 映画「第三の男」(1949年)をみる。何年ぶりだろう。冴えわたった画面に思わず引き込まれる…

堕落論

asin:4101024022 まさか、坂口安吾の『堕落論』*1を読み直すことになろうとは思いも寄らなかった。 [ asin:4101316333 彼女は、安吾のいう、人間が生きるということは結局堕落の道だけなのだということを、文字通り身をもってわれわれに示した。彼女は小賢し…

里見甫と甘粕正彦

誰しも薄々感じているこの日本の不透明な金回りを牛耳っている仕組み、いわゆるエスタブリッシュメント*1の裏側の仕組みを改めて知っておく時が来たと思って、色々と読みあさっているうちに、遅ればせながら、佐野眞一のノンフィクション、ルポルタージュに…

現代の遠野物語

沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史作者: 佐野眞一出版社/メーカー: 集英社インターナショナル発売日: 2008/09/26メディア: 単行本購入: 7人 クリック: 1,593回この商品を含むブログ (57件) を見る佐野眞一の長編ルポルタージュ『沖縄 だれにも書かれた…

現代の塵劫記を

塵劫記 (岩波文庫) 「山内数学教室」を勝手にPRした縁で、山内先生から「昔、古本屋で手に入れた」という岩波文庫版(1977年)の『塵劫記』(底本は寛永20年、1643年版)を譲り受けることになった。 数学の力をつけたい人のための学習相談室(2009年01月13日…