グーグルが本の電子化で狙う「うまみ」の正体は

以前取り上げたことがあるbookscannerさんによる米国を中心とした「本の電子化」をめぐる状況分析報告のなかで、ずっと引っかかりつづけていることがある。
2006-08-14本の電子化の「あちら側」
2006-08-28やっぱり、「アナロジー(類推)で考えてはいけない」のかも
2006-09-16「誰が読むんだ?」ってものを、Googleだけはコツコツ読んでる

本の電子化によってGoogleが目指している本当の目的は何かということである。bookscannerさんが再三丁寧に論じてきたように、少なくともそれは従来の図書館にかわるようなネット上の図書館という意味での電子図書館ではない。つまり「人が読むためではない」。bookscannerさんはとりあえずGoogleのやろうとしていることを「本が本を読む」作戦と命名した。では一体何のために、膨大な数の本をどんどんスキャンしているのか。Googleの本当の狙いに関しては、bookscannerさんは知ってて敢えて書かないような気もするが、どうなんだろう?いずれにせよ、非常に慎重に構えていて、外堀を少しずつ埋めるような戦略をとっている。
「多額の費用をかけてスキャンした画像も、いとも簡単に公開しちゃう。画像はいわば、ニボシか鰹節みたいな存在。ダシとった後なら、ただで配っても、痛くも痒くもない。だって、うまみは、すでにGoogleサーバーの中だから。」
もっと言えば、画像はうまみを取り出したあとに残ったカスみたいなものだということだ。ではGoogleサーバーの中に蓄積されていく「うまみ」の正体とは一体何なのか?bookscannerさんが紹介するGregory CraneやKevin Kellyの意見に、その答えはない。「連想検索+NACSISのDB+青空+ネット上の書評=電子図書館の例」という人間を介在させないサイクルの実現例も、その種のサイクルによってGoogleが狙っている獲物は何なのかの答えにはなっていない。そして、Barbara Quintの記事でも「Googleはね、単に本へのインデックスを作ってるんだよ。」と言われるその「インデックス」が何のためのものなのかは不明である。
ネットの「あちら側」で「本が本を読む」作戦が着々と進行しているという事実はつかめたが、その意図はまだつかめていない。少なくとも、私はまだつかめない。そこで今までのbookscannerさんによる報告を何度も読み直しながら、思いを巡らした。そしてひとつひらめいたことがあった。間違った推理かもしれないが、書いておく。
Googleは別に本の電子化だけをやっているわけではない。すでに地図があり、航空・衛星写真もあり、とありとあらゆる情報源を電子化しネットの「あちら側」の「情報発電所」に蓄えつづけている。とにかく、地球上のあらゆる情報を自前のサーバーに蓄積する、その一環として本の電子化も行われていると、考えられる。すなわち、地図や写真については「誰が見るんだ?」とは問わない理由が、本の電子化にもそのままあてはまるのではないか。Googleにとって、本の情報も地図や航空・衛星写真の情報と等価なのだ。
ここで、私は梅田さんが『ウェブ進化論』の序章で引用しているグーグルに勤める友人の言葉を想起する。

世界政府っていうものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部グーグルで作ろう。それがグーグル開発陣のミッションなんだよね

つまり、世界をガバナンスするために必要な情報の一部として本の電子化によって得られる情報がある。各国政府が欲しがるような種類の情報が抽出できるような本に関する情報。それをGoogleはせっせと貯め込んでいる。bookscannerさんの言う「うまみ」の正体はその辺にあるのではないか。地図や地上の航空・衛星写真と違って、本はあまりに個々人の思い入れの強い情報源ゆえに、シンプルすぎるGoogleの狙いがかえって見え難くなっているのではないか。