専門演習1、2、3

私が担当している「専門演習」という科目は、2年生の後半から4年生の卒業時まで続く。大学生活の後半、就職または大学院への進学に至るまでの重要な時期を共に歩む。

「専門演習」の最終目的は卒業論文の執筆である。それに取りかかるまでの準備、本格的な取り組み、執筆、完成、発表までの過程は基本的に孤独な作業である。私の役目は各ステップで学生たちをサポートすることにある。

学生の観点からは、「専門演習」の二年半のタイム・テーブルはおそよ次のようである。

2年生:自分の「問題意識」や「関心」をはっきりさせて、「研究テーマ」につなげる。
3年生:「研究テーマ」を決定し、資料の調査、収集、記録を本格化させ、卒業論文の柱になるようなレポートを数本書く。
3年生の後半から4年生の前半まで:就職活動に重点を置きつつも、卒業論文の第一稿を書き上げる。
4年生の後半:卒業論文完成に漕ぎ着けるまで集中する。

授業としての「専門演習」に関しては、実際に顔を合わせるのは原則的には1週間に1回わずか90分間なので、その時間にできることは非常に限られている。そこで私はその時間を徹底的に議論に費やすことにしている。学生の日々の過ごし方や上のタイムテーブルへの取り組み方はちょっと話をすれば分かるものだ。私の観点からの、専門演習のタイムテーブルはしたがってだいたい次のようである。

2年生の内は大学生としての自覚を深め、日々の過ごし方に知的な筋金を入れることを目指して、具体的な諸問題をめぐってとにかく議論をする。時には厳しく突っ込みを入れる。そうするなかで自分の「問題意識」や「関心」をはっきりさせて、「研究テーマ」につながるようにさせる。3年生になったら、専門的な議論の割合を増やして行きながら、「研究テーマ」を絞り込ませ、一つに決定させる。そして関連資料の調査、収集、記録を開始させ、卒業論文の柱になるようなレポートを数本書かせる。3年生の後半からは就職活動が始まる。就職活動は多くの場合4年生の前半まで続く。この期間は就職活動をめぐる「悩み」を徹底的に解消するような議論をする。「間違った悩み方」をしないように支援する。適宜、卒業論文執筆関係の支援をする。就職内定後の4年生の後半には、卒業論文完成に漕ぎ着けるまで支援する。

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4月12日(木曜日)3講目。
専門演習3はファッション・デザイナーを目指すA君との差しの勝負の時間。毎回、ファッションやモードをはじめとして、身辺の具体的な問題から人生観、世界観に至るまで、予めテーマは設定せずに、話題提供力を鍛えるためにも、その場で瞬時にどちらかが話題を提起し、それを巡って意見を出し合い、意見の食い違いが生じた場合には、ホワイトボードを使って、図解しながら、自分の意見の構造を浮き彫りにして、その弱点や誤謬を明らかにする、ということを繰返し行ってきた。A君はすでにアパレル業界のある有名企業の経営戦略に関する論文の雛形を書き上げているが、4年生になった現在、シュウカツ(就職活動)真っ只中である。今日はK社での面談のため欠席。来週話しを聞くのが楽しみだ。

4月12日(木曜日)4講目。
専門演習2は3年生になったM君とN君との三つ巴のバトルロイヤル的ディスカッションの時間。N君は体調不良のため欠席。昨年半年間の議論を通して、N君はその感受性の豊かさの反面、人間関係の構築、大学生である自分の立場の自覚、そして自分の関心のコントロールにおいてやや甘いところを自ら認識し、人生観、世界観の立て直しにやや苦労していた。研究テーマと就職先は当初から「映画」関係に絞り込んでおり、非常に期待している。M君の方は、大学生としての自覚の深さと人間関係の構築のアグレッシブさにおいて、いまどきの日本の大学生としてはかなりハイレベルな気合いの入った人生を確実に歩んでいる。頼もしい。研究テーマに関しては、まだもう少し自分の多様な関心を遊ばせたいという。OK。かなりハードなスケジュールを自分に課している身なのに、なんと、今日から茶道部に入るという。「女の子が多いからか?」と茶化したら、「茶道に継承されている伝統的な作法を身につけたいんです」と立派な答えが返って来て、嬉しかった。

専門演習1はまだ開講していない。今年の秋に新人を募集する。