A Red Rose for Paris:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、5月、139日目。


Day 139: Jonas Mekas
Saturday May 19th, 2007
10 min. 38 sec.

In Paris, a reunion
with Auguste, Benn,
Pip, Sebastian and
Zevola --

パリで、
オーグスト、ベン、
パイプ、セバスチャン、そして
ゼヴォラ
再び合流する

最初のカフェで、オーグストとセバスチャンとパイプが登場する。オーグストが持参したらしい、リトアニアのソーセージとチーズ(SURIS SU KMYM...)がテーブルの上に置かれている。白ワインとビールで乾杯する。パイプだけがビール。一人一人が笑顔で語る表情が印象的だ。窓の外のいかにもパリといった通りの表情が少し写る。

二番目の店では、オーグストの相方の女性とパイプの相方の女性の二人が合流している。皆でムール貝の料理を食べている。語り合う彼らの楽しそうな表情。いつも一人のセバスチャンは赤ワインを味を確かめるように飲んでいる。彼はいつも微笑みを絶やさない。

どこかの通りに「リトアニアからメカスに会いにヒッチハイクしてきた」という集団がいる。まだ十代前半に見える四人の娘たちが自作の紙のお面を顔にあてたりして戯れている。付き添いの先生に見える年配の女性が傍で煙草を吸っている。デジタルカメラやビデオ・カメラでこちら(メカス)を撮影している人たちもいる。

薄暗いカフェ店内。ベンが後光の射した女神が描かれた絵葉書をテーブルの上に立てている。

ゼヴォラとセバスチャンがセーヌ河にかかる橋を行く。少し後からベンが行く。その橋の舗道は木の板で組まれている。Pont des Arts、ポンデザール(芸術橋)のようだ。三人は橋の中央付近で立ちどまり、向こうに見えるパリ最古(1604-)の石造りのアーチ構造のPont Neuf、ポン・ヌフ(新橋)の方をしばらく眺めている。

ベンとゼヴォラとセバスチャンはカフェにいる。疲れた表情のベンは白ワイン、何かを考え詰めている表情のゼヴォラはビール、セバスチャンは白ワインを口にして微笑んでいる。三人の間に会話はない。

ラジヴィル通り(RUE RADZIWILL)の標識がアップで写る。通りの角にたって何やら相談しているゼヴォラとセバスチャンとベン。一行は歩き出す。メカスは左手に持った一輪の赤い薔薇をときどき写す。

タクシーのフロントガラス越しにパリの通りが次々と姿を見せる。カメラの前に一輪の赤い薔薇が差しだされたままだ。

メカスはパリに「熱烈な恋心」を告白している。

***

何の変哲もない、息子と友人たちの普段着の表情と様子を断片的に捉えた映像。ただし、舞台はパリ。今回は完全にカメラの背後に隠れて、姿を見せないメカスは、その代わり赤い薔薇をカメラの前に差しだす。愛するパリの街で、愛する息子や友人たちと、おしゃべりしたり、食事したり、ワインを飲んだり、橋を渡り、幾つもの通りを歩いたり、車で流したりするメカス。

人の表情や仕草だけでなく、店内や通りの細部の表情を、ぱっ、ぱっと、一瞬、深く交わるように撮り続けるメカス。

そこには、生活を犠牲にするような、いかにも「芸術的な」要素は何も写っていない。あまりに普通のことばかりだ。しかし、そのあまりに普通のことばかりを、こうして撮影し続けること自体は普通ではない。日常をマンネリ化させるのは、マンネリ化した視線であり、日常そのものは汲み尽くしがたい細部の無限に開かれている。そのことに気づかない灯台下暗しの心は、ありもしない方向と場所に、いかにも「芸術っぽい嘘」を捏造してしまう。

お前には、目の前の雑草の姿が本当にちゃんと見えているか?目の前の家族の表情がちゃんと見えているか?

メカスの断片的な映像はいつも私をそのような無言のメッセージで刺す。