今回は、世界とのつながりを視野に入れつつも、極東の日本に焦点を合わせて、縄文土器から古田織部の沓(くつ)形茶碗までの「やきもの」と「うつわ」の変遷に注目しながら、日本の情報文化的特質を概観します。
日本人の器物に対する感受性は世界でも類をみない特殊な質と方向性を持っています。自分専用の器を所有する風習は同じ漢字文化圏の中国はもちろん、お隣の韓国でもありません。中華料理店や韓国料理店へ行くだけでも、それは感じますよね。しかも食器として陶器、木製の汁椀にこだわるのも日本人だけのようです。他は金属器が多いのです。このような文化的な癖の違いの面白さもさることながら、食器や鈴、さらには楽器などを含めた器(うつわ)一般に秘められた、人間と世界、宇宙に関する観念は非常に興味深いものです。
ところで、いま使っている茶碗はお気に入りですか?茶碗?湯呑み茶碗のこと?それとも御飯茶碗のこと?とひっかかった人もいるでしょうね。そもそも「茶碗」という言葉には「茶」が入っているから、お茶を飲むための碗=器のはずだし、白湯(さゆ)を飲むことはめったにないから、湯呑み茶碗じゃなくて、ただ「茶碗」でいいんじゃないか、そして、御飯茶碗は御飯とお茶が居心地悪そうに同居しているようで、むしろ御飯碗の方がすっきりしていていいんじゃないか、と思ったことのある人もいるでしょうね。実は茶碗をはじめとするやきものの歴史は縄文時代にまで遡る壮大かつ深遠かつ複雑な事情をもちます。一度陶磁器専門店かデパートの陶磁器コーナーで自分が惹かれる茶碗はどんな種類のどこの窯で作られたものかをチェックしてみることを勧めます。例えば、陶磁器を「瀬戸物」と呼ぶこともありますが、瀬戸は13世紀半ばに出揃う、いわゆる「六古窯」の、常滑、備前、丹波、信楽、越前と並ぶ一つのブランドでしかありません。もしかしたらあなたはもう少し後に登場する佐賀県の「有田焼」(別名「伊万里焼」)が好きかもしれません。
講義の骨子です。リンク先に飛んで遊んでください。
1縄文土器から茶の湯まで
縄文土器の謎
中国の場合(青銅器、饕餮文(とうてつもん)、彩陶、黒陶、施釉陶(せゆうとう))*1
鋳造技術と釉薬(ゆうやく)の関係
縄文の神々から弥生の神へ
弥生土器の「静謐」
須恵器(すえき)と土師器(はじき)
奈良三彩と唐三彩
越州青磁と猿投窯(さなげよう)の灰釉陶(かいゆうとう)
分焔柱と六古窯
瀬戸焼の発祥と北条氏
好み(趣向)と白磁幻想
喫茶の風習と中国の飲茶の継承2利休から織部へ
桃山陶器の誕生と発展の背景
千利休の「侘び茶」
瀬戸焼の脱落と美濃焼の台頭
古田織部の「へうげ」*23「ウツワ」と「サナギ」の現象学
「ウツワ」という言葉
「からっぽ」に宿るもの
物語、おとぎ話の原型
人間とは器である
「ウツ」観念の分岐
「サナギ」と「おとずれ」
*1:徐朝龍『長江文明の発見』参照。