情報デザイン論2007 第3回 物語とは何か

前回は歌舞伎の「世界定め」などを題材にして私たちの人生がそこで展開する世界をどう見立てるかという世界観、世界モデルのお話をしました。多種多様な「事」がそこで展開する舞台、枠組としての世界。しかし「世界」は抽象的な概念として存在するわけではありません。私たちは世界をかならず具体的な物語の舞台として物語の必須の背景として物語に組み込まれた形で経験します。私たちは様々な物語を通して世界を経験するのです。これは物語というものが人類の世界経験の記憶媒体のようなものであることを意味しています。様々な物語を知ることはそれだけの数の世界観ないしは世界モデルを知ることにつながります。

そういうわけで、今回は世界に言わば血を通わせる物語の正体に迫る予定です。項目は以下の通りです。

1物語の連鎖
2物語の母型
3物語の普遍的特性
4物語の構造
5物語の魔術性

ところで、聞く所によれば、近藤社長を筆頭にはてなの社員たちは、スター・ウォーズの物語を通して、自分たちの仕事を意味付けているそうですが(違っていたらご免なさい)、それはゾロアスター教の善神と悪神との戦いを原型とする、「出発、試練、帰還」の三段階から成る一種の英雄伝説という物語を通してインターネット時代の世界を経験している、あるいはインターネット時代に相応しい経験を組織化している、あるいはそこでの新たな経験をデザインしているのだと理解することができると思います。

私たちは現在の経験(勉強、仕事、恋愛等)をどんな物語によってどんな世界に位置づけているのか。それを知ることは現在の経験の限界を知り、その限界を超えることにつながります。すなわち、より望ましい世界を実現するにはどんな物語を自分の中に立ち上げて、どんな行動に移せばいいのかという段階に進むことができるようになります。

そこを押さえた上で、次回以降「情報デザイン」の各論に入る予定です。