左は原色日本鳥類図鑑 (保育社の原色図鑑 (6))
右は江戸鳥類大図鑑 THE BIRDS AND BIRDLORE OF TOKUGAWA JAPAN
左が府川充男がタイポグラファーとしての己の原点であると語った(→ 絶対文字感と真性活字中毒者)小林桂助著『原色日本鳥類図鑑 BIRDS OF JAPAN IN NATURAL COLORS』(初版1956年)の新訂増補版(1983年〜)。右は以前から覗いてみたかった堀田正敦(1755年〜1832年)が著した『観文禽譜』(1794年〜1831年)を鈴木道男が現代に蘇らせた『江戸鳥類大図鑑 THE BIRDS AND BIRDLORE OF TOKUGAWA JAPAN』(平凡社、2006年)。
ここ一年半ほど、ほぼ毎日、高野伸二著『フィールドガイド日本の野鳥』(asin:4931150411)を見ている私にとって、他の鳥類図鑑を手に取ることは、浮気でもするようで、気が引けた。笑っちゃう。実際に少なくとも今のところ私は『フィールドガイド』に満足しているということもある。でも、ごく最近になって、ブック・デザインの観点から、そして鳥の絵、イラストのクオリティの観点から上の二冊の図鑑に強く気を引かれていた。調べもので図書館に行ったついでに、その二冊を捲った。お気に入りのシメを中心に私がよく見かける野鳥たちがその二冊でどう描かれているか確かめた。
『原色日本鳥類図鑑』に掲載されている鳥の絵は非常に丁寧に描かれた鳥への深い愛情が伝わって来るようなものだった。目の色まで正に「原色(NATURAL COLORS)」が表現されているように感じた。鳥類図鑑の絵として非常に質の高いことは間違いない。ただ、描かれた鳥たちはどこか大人しいというか、語弊があるかもしれないが、どこか剥製のように見えた。
『江戸鳥類大図鑑』に掲載されている鳥の絵は一見大雑把の印象があった。しかしそれと同時にどこか不穏な雰囲気も漂わせていた。このシメなどは私が見かけるシメとはかなり印象が違う。江戸時代シメはこうだったとは考えにくい。おそらく堀田正敦にはこう見えたというか、こう表現せざえるをえない動機があったはずだと感じた。
まだ巧く説明できないが、鳥をはじめとする自然に対する視線が江戸の堀田正敦と昭和の小林桂助とではかなり違うことは確かだと思う。堀田正敦の描く鳥たちは私の図鑑のイラストに関する常識を超えて今にも動き出しそうな、鳴き出しそうな、飛び立ちそうな気配を漂わせている。この差異は非常に面白い。