飛んでる平仮名:嵯峨本『伊勢物語』*1

国立国会図書館に行ってみたら(もちろんウェブ)、「貴重書展」をやっていて、以前からちょっと見たかった江戸時代初めに印刷された「嵯峨本」と呼ばれる当時の高級本に入る『伊勢物語』が展示されていた。が、ウェブ上ではデジタル画像は一枚しか見ることができなかった…。札幌に住んでいると、国立国会図書館にはおいそれとは行けないから残念だ。


伊勢物語』慶長15年(1610年)刊。古活字版。嵯峨本。
国立国会図書館貴重書展 展示No.46 伊勢物語 http://www.ndl.go.jp/exhibit/50/html/catalog/c046.html

何が見たかったかというと、古活字版(木活字版)の「連続活字」*1による平仮名の姿形だった。例えば、「し」が倍角、二倍角相当の丈を持つ伸びやかな姿を見たかった。あった、あった。

しかし、どうも想像していたより大人しい印象だ。そこで他を探してみたら、関西大学図書館電子展示室『伊勢物語http://www.kansai-u.ac.jp/library/etenji/isemonogatari/ise-top.htmlで、ほぼ「同じ」と言える版が全面公開されていた。中身が全部見られる。しかも、同じ江戸時代でも百年以上後の「改正」版まで比較しながら見られるようになっていた。



嵯峨本『伊勢物語』 慶長13–15年(1608–1610年)刊 古活字版


改正『伊勢物語』 延享4年(1747年)刊 整版

ノンブルはないけど、頁を捲っていたら、あった、あった、想像通り、いや想像を超える平仮名の姿形がいっぱいあった。




みんな手書きじゃなくて、活字だよ。念のため。

ちなみに、同じ「嵯峨本」に入る『源氏物語』があると聞いて、九州大学付属図書館所蔵「古活字版源氏物語(無刊記)」データベース http://herakles.lib.kyushu-u.ac.jp/genji/index.htmに見に行ったら、面影は留めているものの、『伊勢物語』よりもずっと大人しく安定していた。


古活字版『源氏物語』(無刊記)

部分拡大。

こうして確認したかったことは、和文の活字とか文字とかいったときに、当たり前だと思っている一〼一文字という文字の空間的単位も実は平仮名にあっては全然当たり前ではなかった歴史があるということ。そしてそれは平仮名の「生命」(「音楽性」)を考える上でも大きなヒントになりそうな気がする。さらに本の電子化においても特に古い本を電子化する場合にちょっと問題になりそうな気がする。

*1:二字以上の連続する文字列をひとつの活字駒に彫出したもの。「連綿活字」とか「連彫活字」ともいう。