If it is not on the net, it does not exist.


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明治3年創業の中西印刷(京都)は1992年6月に活版を廃止した。活字版印刷専業だった同社の電算化を推し進めたのが本書の著者、六代目にあたる中西秀彦氏である。最後まで活字を愛した父親=伝統との「対決」を描いた「9 さらば、活版」は感動的である。父親=伝統との「対決」とは深いコミュニケーションの謂いであった。ちゃんと対決したからこそ、中西印刷は技術革新の荒波を乗り切ることができた。

その後の中西印刷=中西秀彦氏は、インターネット時代の「印刷」の可能性を果敢に追求している。

とりわけ、2000年にOxford University Pressとオンラインジャーナル分野で提携するなど、学術雑誌のオンラインジャーナル化の国際的な動向を踏まえつつ常に「未来の印刷業」を指向する前向きの姿勢を貫いているようだ。

今後、インターネットのハイパーリンクの網の中に論文が掲載されていない、つまりはオンラインジャーナル化されていないと、その論文は発表されたこと自体がどこからも知られず、実質的に発表されていないのと同じということになる(If it is not on the net, it does not exist.)とも言われています。

(中略)

中西印刷は、未来の印刷業を考える上で、オンラインジャーナル化は必然と考えています。特に、中西印刷の得意とする学術雑誌はもっともオンラインジャーナル化に適した分野であり、積極的に取り組んできました。実際に、日本のJ-STAGEへの掲載をはじめ、1999年のOxford University Press との提携によるHighWireへの日本の学術雑誌掲載、最近では米国National Library of Medicineの運用するPubMed Centralへのオンラインジャーナルデータ直接提供をおこなっています。

PubMed CentralへはActa HistChemica et Cytochemica誌とJournal of Clinical Biochemistry誌の2誌を皮切りに、続々とオンラインジャーナルコンテンツを日本から発信しようとしています。J-STAGEに関しては設立当初から関わり、25誌を中西印刷から送り出しており、J-STAGE仕様のオンラインジャーナル製作でも日本最大級の実績を有しております。

さらに、中西秀彦氏は「オンラインジャーナル最新動向ブログ:オーエルジェイ」でオンラインジャーナルの最新動向を「現場の目」から解説している。あまり頻繁には更新されておらず、最新記事は今年始めであるが、『ウェブ進化論』や「オープンアクセス」の動向に言及する記事が目に留まった。

こうして、活字版印刷の歴史への興味から読んだ本がきっかけになって、私のなかの「印刷の世界」の一方の縁が、未発表の学術論文を投稿・共有するサイトmyopenarchive.orgを運営している坂東さん(id:keitabando)の情熱に溢れた活動にちょっとだけ触れた。