その老人のように歳を取りたい、PAUL GALBRAITH, BACH

時々無性にバッハが聴きたくなる。


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バッハにまつわる思い出はたくさんあるが、今でもよく思い出すのはアメリカにいたとき仲良くなったロン・サンド(Ron Sand)という名前の老人がクリスマスにプレゼントしてくれたポール・ガルブレイスのギターによるバッハである。それを聴いていると、ロンとの出会いを次々と思い出す。色んな会話や一緒に観に行った映画や一緒に食事したときのことなどを思い出す。帰国後私は彼に小津安二郎の『東京物語』の英語字幕付きDVDと京都のどこかのお香を送った。たいそう喜んでくれた。彼は生きている間に日本に行って各地の建築や工芸品などを見て回りたいとしきりに言っていた。私はいつでもおいでよ、案内するよ、と気軽に答えたものだった。彼は日本建築にも詳しく、自宅の設計に床の間や縁側や借景などのコンセプトを取り入れたりしているような人だった。イサム・ノグチのファンでもあった。一度一緒に日本料理店に行ったときのこと、彼は箸の使い方はすでにマスターしていたが、しきりに私に尋ねたのは、食べる順番や混ぜて食べることは上品なことか下品なことか、というようなマナーのことだった。

彼からは色んなことを学んだ。私の雑多な関心を面白がってくれた彼は、あるときスコットランドにいる自然の芸術家アンディ・ゴールズワージーAndy Goldsworthy, born 1956)の仕事を見るように勧めてくれた。早速ゴールズワージーのドキュメンタリーDVDを買って観た。私はかなり気に入って、その後図書館に入り浸って彼の作品集をすべて見たりしたのだった。ふと、それが現在の私のつたない「芸術活動」につながっているのかもしれないと思った。そういえば、そのことを2年前にちょっと書いたことを思い出した。

今ちょうどSONATA No.2のFugaがかかっている。私はサンド翁のように歳を取りたいと思っている。