土の味、水の匂い

夜になるまえに―ある亡命者の回想 (文学の冒険シリーズ)

夜になるまえに―ある亡命者の回想 (文学の冒険シリーズ)

ぼくは二歳だった。裸で、立っていた。前かがみになって、地面に舌を這わせた。ぼくが覚えている最初の味は土の味。同い年の従妹ドゥルセ・オフェリアといっしょに土を食べたものだった。ぼくは痩せていたが、土をたくさん食べるために腹に虫がわき、そのせいで腹がひどく膨れていた。ぼくたちは家のランチョで土を食べた。ランチョというのは家畜が、つまり、馬や牛、豚、鶏、羊が寝るところだった。そのランチョは家のわきにあった。
レイナルド・アレナス『夜になるまえに』19頁)

今日、午前の講義が終わり、一息ついた頃に、一人の卒業生が訪ねてくれた。ここには書けないような大変な苦労を重ねた奴だった。いろんな話をした。そのなかで、土地特有の匂いの話になり、幼い頃に身近だった土の匂いやアレナスほどではないが、食べたことのある土の味を思い出した。奴もまた忘れられないある土地の匂いのことを語ってくれた。色んな匂いが混じり合っていたらしいが、驚いたのは、その中に「水の匂い」があったことだった。水の匂い?

そういえば、昔祖父母の家の庭には井戸があって、そこで汲んだ水の匂いを思い出していた。