コケコッコー! 永光農園にて

所用で訪ねた札幌市郊外の有明(ありあけ)で、ふと何かを感じて立ち寄った永光(ながみつ)農園が素晴らしかった。


市街地を過ぎ、郊外の一本道をしばらく行くと石狩川水系厚別川にぶつかった。厚別川にかかる南栄橋を渡ってすぐの右手にカエデの大木に守られた有明神社がある。そこから先は農地が続く。そんな中にぽつんと存在する事務所で用事を済ませた後、南栄橋から厚別川を眺め、有明神社の楓の下に佇み、赤い鶏のロゴマークが印象的な看板が目に留まり、ふらりと永光農園に立ち寄った。

車から降りた途端、何とも言えない気持ちのよい空気に包まれた。匂いだろうか、音響だろうか。驚いたのは、え? これが養鶏場? と思わず見とれた、私の中の養鶏場のイメージを根底から覆すような鶏舎だった。木造のシンプルで風通しの良さそうな設計の鶏舎からは時折鶏鳴が響き、背後の山に谺していた。鶏糞の臭いが全くしないのが不思議だった。その理由は後で知ることになった。




永光農園へのアプローチはまずは『農園の四季』から始まる。自家産十割蕎麦のお店である。各種野菜と特性シフォンケーキの売店を兼ねている。その隣には見たことのない自動販売機の置かれた小屋があった。何だろう? と思って覗いて見たら、有精卵の自動販売機だった。へーっ。驚いた。スタッフの留守中に卵を買いに来る客への配慮のようだった。


『農園の四季』の裏にはフラワーガーデンが控えている。客が自由に出入りでき、気に入った植物を購入することもできる大きな花畑である。『農園の四季』では店内からそのお花畑を眺めながらソバを堪能することができる。『農園の四季』と自販機小屋の間の道を奥に進むと右手奥に大きな鶏舎がある。左手には野菜と果物の畑が広がる。鶏舎の背後に蕎麦の畑があるようだった。山を背後に控えた広い土地に、それらが空間的にゆったりと気持ちよく配置されていた。そしてその敷地全体がすみずみまで大変よく手入れの行き届いた印象だった。そこに流れる時間も深く複雑にルバート(?→ 「盗まれた速度あるいは笑顔のルバート」)しているように感じられた。



私は『農園の四季』ではメニューの蕎麦のみならず、厚焼卵にも心惹かれたが、朝食を済ませたばかりだったので諦めて、売店でシフォンケーキ(ニンジンとホウレン草と紅茶の三種)を永光農園との出会いの記念に買った。新鮮な有精卵と採れたての野菜と小麦を使った「しっとりふわふわ」のシフォンケーキである。すごく美味しかった。家族の評判も上々だった。

『農園の四季』でシフォンケーキの代金を支払おうとしたら、Lさんがレジスターの扱い方をまだ知らなかったようで、店外の野菜畑か花畑に助けを呼びに行った。しばらくすると、XさんとZさんが店内に駆け込んで来た。Zさんがレジを打って、おつりは無事に私の手に渡った。Lさんはこれでレジスターの扱い方を覚えたようだった。世間話をしながら、その間のある一瞬を「記念写真を」と言って一枚撮った。「記念写真なんて、撮らないで下さいよおー」という声は嬉しそうだった。Zさんが「おいしいソバが20分で出来るから、食べていきなさい」と名残惜しそうに言ってくれたのが嬉しかった。近いうちに必ずそばを食べにくる約束をしてお店を出た。

鶏舎から背後の山に複雑に谺する鶏鳴に非常な懐かしさがこみ上げて来て、鶏舎に少しだけ近づいて、しばらくそのサウンドスケープに浸った。どこからともなく番犬の吠える声が交響している。ビデオ撮影した。いい感じですから、是非ご覧お聴きください。

帰宅後、ウェブで「永光農園」を調べてみた。なるほど! へー! の連続だった。