蛇の家の謎1

昨日、凄いものを見た。これです。

よく見えない? じゃあ、ズームします。

どう? 見えますか? なんと「蛇の家」です! これは一体全体何だと思いますか。どっかの家の庭のちょっと凝った趣味のディスプレー? そうとも言えます。そう思って通り過ぎて生きて行くことも十分に可能です。が、これにはちょっと面白い話が控えています。簡単に報告します。

その前にちょっとだけ言い訳を。

秋になると、昨日の夕方ふと窓の外を見ると、赤とんぼが群れをなして風に乗っているのを見て、これは確実に秋だと思ったのですが、心のどこかがむずむず、そわそわし出す悪い癖があります。ちょっとでも時間があると、ふらふら出かけては変な人や物に出会うのです。そしてニヤニヤしながらやや神秘主義的傾向*1に陥ります。

実は昨日の午後、止せばいいのに、地図を見ていました。藻岩山近辺、特に先週ちょっと訪ねた北丿沢川の流れをチェックしていたのです。そのとき「白龍大明神」の5文字が異様な雰囲気で目に飛び込んできました。今までも見なかったはずがないのですが、なぜか昨日はその5文字からしばらく目が離せませんでした。呼んでいる。白龍大明神がこの私を呼んでいる。そう直観しました。そうなると、いてもたってもいられません。気づいたらカメラを首からぶらさげて変な帽子を被って私は家を飛び出していました。物理的には30分ほどの「ちょっとそこまで」の外出にすぎないのですが、ずいぶん遠い処へ長い旅をした気分でした。

(そういえば、坂ちゃん(id:keitabando)は、オーストラリアで連日刺激的な「アウェー」の旅を体験しているようで、何よりです。理想はアウェーもホームもない、地球上どこ行ってもある意味ではアウェー、ある意味ではホームみたいな境地なんだろうね。爺は住み慣れたはずの町でアウェー戦を戦っている気分だよ。)

自分でもよく分からない理由から、直接白龍大明神を訪ねることは避けて、そのすぐ近くにある北丿沢神社に立ち寄りました。その辺りの土地の、専門的には何て言うのか知りませんが、霊的中心? だと思ったからでしょう。まあ、そこに軽くご挨拶してから、白龍大明神に向かおうと思ったようです。ところがそこで思わぬ出会いがありました。怪しい先客がいたのです。私と同じようにカメラを携帯し、必要以上に神社を観察している男が。まったくの初対面でしたが、花咲か爺の笑顔が功を奏したのでしょう、彼とはすぐに仲良くなってしまいました。話す前から同好の士であることはお互いに分かったんですね。挨拶もそこそこに、お互いの興味やこれまでの「調査」の概要について話しました。そのうち、彼は「三上のブログ」を読んでいたことが判明しました。「あの」(どの?)三上さんですか! ということで、さらに意気投合したのでした。たぶん中丿沢川上流にある謎の祠の消息を追ったエントリーを読んでいたのです。

その人物はここではとりあえず郷土史家のOさんと呼ぶことにします。

Oさんは主に北海道開拓にまつわる埋もれた歴史を掘り起こすために神社を中心にいろいろと広範囲に調査して回っている郷土史家です。地図を見れば、神社の記載がなくとも、山の標高と川の流れなどから神社のあるべき場所がほぼ正確に推定できるといいいます。そして実際にそのような地図には載っていない神社なども探訪してきたそうでした。上の写真はどんな地図にも載っていない、しかも名もないある神社の位置を私に説明するためにOさんが地面に描いてくれた道路地図です。大の大人二人が日中道路脇にしゃがみ込んで石ころで地面に何やら描いている様子はかなり怪しいけど楽しそうでしょ。実際楽しかったです。後でOさんからも、楽しかった、この出会いは、神様のお導きに違いありません、というロマンチックなメッセージが届いたほどでした。

北丿沢神社への挨拶と簡単な調査(これについては「神社の立地条件と周囲の景観との関係」という観点から後日改めて報告するつもりです)を終えた私がこれから白龍大明神を訪ねるつもりだと言うと、まだ訪ねたことがないというOさんも同行すると申し出てくれました。いきなり「白龍大明神共同調査隊」の発足でした。楽しそうでしょ。実際楽しかったです。

そういうわけで、Oさんと私は一緒に白龍大明神に向かったのです。ところが、え!?

私はてっきり独立した専用の社殿か祠が存在して、そこに白龍大明神が祀られているものと思い込んでいました。ところが、おっと、びっくり、「白龍大明神」と書かれた大きな看板が目に飛び込んで来たではありませんか。看板です。ごく普通の民家の玄関の庇の支柱に掛けられていました。何かの道場のような雰囲気です。ちゃんと普通に表札がありました。Sさん宅です。ええ? これがそうなの? 一瞬目を疑うと同時に私は深く混乱する快楽を味わっていました。んん? どう考えたらいいんだ? Oさんと私は「本尊」を探しましたが、それらしきものは見つかりませんでした。あいにくSさんは留守で、事情を尋ねることもできませんでした。あまりうろうろしてじろじろ観察するのも気が引けました。なにせ個人住宅ですから。

諦めて帰りかけた時、OさんがSさん宅の玄関横の庭の造形の一部に何かを感じるとぞくぞくすることを言い出したのです。失礼して撮らせていただいたのが冒頭の二枚の写真です。小さな池があり、その周囲を大小の古めかしい石が囲んでいます。随分「古い」(つまりここではないどこかで何かに使われていたような痕跡を感じるという意味だとその時私は咄嗟に思いました)石のようだとOさんは言っていました。そして比較的新しい印象の石で造られた可愛らしい玩具のような家に目が釘付けになったわけでした。ん? よく見るとその家の入口から何かが顔を覗かせている。何だ? と思ってさらによく見ると、なんと蛇ではありませんか! 蛇は神話的宗教的想像力の世界では(白)龍と同じように水の力を象徴するものと考えていいでしょう。そうか、こうやって白龍大明神は祀られていたのか!

しかし、です。どこかすっきりしませんでした。それはあくまでミニチュアの「代理」にしか見えなかったからです。「本物」ではない。そう感じていました。本来の白龍大明神はその同じ場所か別の場所で、違う形で祀られていた、あるいは現在も祀られているのではないかと疑いました。何かの事情でSさん宅の庭でこういう形で代行、継承されることになったのではないか、と。

他方、そもそも私の中にとんでもない勘違い、大きな偏見があって、見る目を曇らせているような気もしてきました。それが何かまだよく分かりませんが、見えるがままに、実はSさん宅そのものが実は社殿なのかもしれないという思いも生まれていました。そして家の中に「本尊」が祀られているのではないか。いやいや、そもそもそんな物神的な見方に囚われているから、見るべきものが見えていないのではないか、等々。

こうして偶然出会ったOさんと一緒に白龍大明神に出会ったのですが、正確には何に出会ったと言えばいいのか、まだちゃんと出会ってはいないのは確かだと思っている謎の報告でした。今後の調査の成果をご期待ください。しかし、「蛇の家」はなかなか凄いでしょ。

ちなみに、Oさんは目ざとく「白龍大明神」の看板に見られる「笹竜胆(ささりんどう)」の家紋に注目していました。笹竜胆の家紋は、源氏の家系に伝わるものです。源氏と笹竜胆。それらと白龍大明神 ≈ 蛇とのつながりは単なる偶然なのか、それとも何らかの因縁があるのか。それも謎です。

Oさん、昨日はどうもありがとう。短い時間でしたが、大変楽しく勉強にもなりました。またどこかで遭遇しましょう。

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参考までに、北丿沢神社と白龍大明神の位置を確認できるグーグルマップです。旗をクリックすると簡単な説明を読むことができます。


大きな地図で見る

なお、北丿沢神社、および近隣の神社に関しては、以下のページが参考になります。

*1:自然と人事の接点、境界が面白い。そして自然の力、時には危険でさえある力、を受けとめるために古来人間が発揮してきた神話や宗教に通じる想像力の働かせ方も面白い。例えば、水の力を龍や蛇のイメージに託した上で、それらを神として祀るという想像力はなんて素敵なんだろうと思う。いつのまにか、川を見るとその上流域のどこかに水の神を祀る神社や祠を探すようになった。