月を観ながら、兎が餅をついているように見えなくもないなあと思いながら、肉眼でははっきりとらえられる表面の模様が、撮れないなあ、撮れないなあと、ぶつぶつ言いながら、設定を変えては何十回もシャッターを切っていた。稲垣足穂を思い出していた。
ある夕方 お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた 坂道で靴のひもがとけた 結ぼうとしてうつむくとポケットからお月様がころがり出て 俄雨に濡れたアスファルトの上を ころころころころ どこまでもころがっていった お月様は追っかけたが お月様は加速度でころんでゆくので お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった こうしてお月様はズーと下方の青い靄の中へ自分を見失ってしまった