独り観月会:「月の人」を想う


2008/09/15, 17:58:47

月を観ながら、兎が餅をついているように見えなくもないなあと思いながら、肉眼でははっきりとらえられる表面の模様が、撮れないなあ、撮れないなあと、ぶつぶつ言いながら、設定を変えては何十回もシャッターを切っていた。稲垣足穂を思い出していた。

ある夕方 お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた 坂道で靴のひもがとけた 結ぼうとしてうつむくとポケットからお月様がころがり出て 俄雨に濡れたアスファルトの上を ころころころころ どこまでもころがっていった お月様は追っかけたが お月様は加速度でころんでゆくので お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった こうしてお月様はズーと下方の青い靄の中へ自分を見失ってしまった

月の人とは ちょうど散歩からかえってきてうしろにドアをしめた自分であったと気がついた
稲垣足穂一千一秒物語』)