バドワイザーが仏陀につながる

ビールと古本のプラハ (白水Uブックス―エッセイの小径)

ビールと古本のプラハ (白水Uブックス―エッセイの小径)

千野栄一著『ビールと古本のプラハ』には、日本でもよく知られているチェコの作家カレル・チャペック(Karel Čapek, 1890–1938)が生まれたボヘミア地方をめぐる日本人15人のツアーの回想記「チャペックとビールのチェコ」(32頁〜53頁)が収められている。その中で千野栄一先生は、あのアメリカの代表的なビールの銘柄「バドワイザー(Budweiser)」の由来について面白いことを書いている。ボヘミアの南の中心都市チェスケー・ブジェヨヴィッツ(České Budějovice)に着いたツアーの一行は、早速マスネー・クラーミィというビアホールに殺到し、「ブドヴァル(Budvar)」に舌鼓を打ったというくだりである。千野先生によれば、チェスケー・ブジェヨヴィッツをドイツ語でブドヴァイス(Budweis)といい、それがバドワイザー(Budweiser)の語源である。かつてブドヴァイスの名称を巡って「40年も使っている」と主張するアメリカ側と「こっちではもう400年使っている」と主張するチェコ側との間で裁判が起きたという。その結末は、バドワイザーバドワイザーチェコ側はブドヴァルを使うということで収まったらしい(本書42頁)。なお、ちょっと調べてみたら、ヨーロッパではバドワイザー名での販売はできず、「Bud(バド)」、または「Busch(ブッシュ)」という名での販売となっているようだ。そしてそのブジェヨヴィッツからバドワイザーまで継承される「Bud」という言葉の断片の言語を跨いだ「旅」がとびっきり面白い。

 この町の名 [チェスケー・ブジェヨヴィッツ] は古いインド・ヨーロッパ語の語根 bud- からきていて、「目覚める」というのがその元の意味である。現在のチェコ語でブジークあるいはブジーチェク、ロシア語でブジールニクは「目覚まし時計」を意味する。そして、これは「仏陀 [buddha]」という形で古代インド語から中国語を経て日本語に入っている。仏陀というのは目覚めた人、覚醒した人、悟った人という意味である。そこで、「バドワイザーや、ブドヴァルのビール、目覚まし時計が親戚であるとは、お釈迦さまでもご存知あるまい」と、いうことになる。

 千野栄一著『ビールと古本のプラハ』42頁〜43頁


そう言えば、私の好きなジャズピアニストの一人はバド・パウエルBud Powell)だった...

Bud Powell Trio - 'ROUND MIDNIGHT


参考: