新井白石『西洋紀聞』



 西洋紀聞 (岩波文庫 黄 212-3)


先日、近所のCOOPに買物に行った折、無人の古本50円均一コーナー(鍵のかかったユニセフの募金箱が設置してある)を眺めていたら、一冊の古い岩波文庫が目にとまった。新井白石の『西洋紀聞』だった。1709年、鎖国下の江戸中期、命がけで日本に潜入するも、捕らえられ、切支丹屋敷に幽閉されていたイタリア人宣教師シドチを尋問した新井白石による、日本人の西洋理解のルーツとなったとも評される報告書である。手にとって、ぱらぱらと捲っていて、驚いた。日本語をほとんど知らないイタリア人とイタリア語を全く知らない日本人がここまでお互いを理解し合えたことをはじめとするテクストの意味内容もさることながら、その岩波文庫版の大胆な割注(本文の間に割り書きにした注)を用いた本文組みに驚いた。ルビよりも一回り大きなポイントの活字によって埋め尽くされたページさえある。もちろん、活版印刷であるから、気が遠くなるような作業だったに違いない。迷わず、募金箱に50円を入れて、持ち帰った。ちなみに、宣教師シドチの日本潜入は、例えば、冷戦時代に私が使命感に燃えて、その国の言語をほとんど解しないままある東側の国に潜入するも、すぐに捕らえられ、どこかに幽閉され、極めて有能な、しかし日本語をほとんど解しない政府関係者に尋問され、そのうち地下牢に閉じ込められそこで衰弱死することに等しい。