スロー・リーディング

前略。

論理的に読む力をつけるためには、接続関係に注意しながら議論を読むトレーニングを積む必要がありますが、そのポイントについて野矢茂樹さんはこう書いています。

ポイントは速く読むことにはない。むしろまったく逆で、いかにゆっくり読むかである。実際、急ぎ足で読み飛ばすよりも、何気ないところにも注意しながら立ち止まることのほうが、「読む脚力」は要求される。なぜこの言葉がここで使われているのか、この箇所とこの箇所はどういう関係にあるのか。そうしたことを、きっちり考えていく。それはふだんの読書とはまったく違う作業となるだろう。
 (『新版 論理トレーニング』31頁)

まずは、「いかにゆっくり読むか」が「ポイント」であると主張するこの一節をいかにゆっくり読むかがポイントだと思います。

例えば、この一節における接続関係には直接影響はありませんが、「読む脚力」という印象的な表現が強調的に使われていることにひっかかった人もいるのではないでしょうか。私は思わず立ち止まりました。その表現には議論の流れをつかむ力は読む力におけるいわば基礎体力の要である「脚力」にも相当するという考えが籠められていると思います。私は「脚力」よりも「膂力(りょりょく)」のほうがいいかなとちらりと思いましたが、「膂力」は筋肉の力、特に腕力を意味するので、やはり脚力の方がふさわしいでしょうね。

また、「そうしたこと」や「それ」に微かにひっかかった人もいるのではないでしょうか。改めて、それらの内容は何かと問われたら、きっちり答える自信はありますか? 実はこのような指示表現、指示語は、表現の反復を避けるだけでなく、主張をつなぐ、議論を接続する重要なはたらきをになっています。ですから、前回やったさまざまな接続表現とならんで、このような指示語による接続関係をもきっちり読みとることが、議論の流れをつかむ上で非常に大切なことになります。

明日はどれだけゆっくり読むことができるか試すくらいの気持ちでとにかく「ゆっくり読む」ことを通して、『読む脚力』をつけるための第一歩を踏み出すことにします。「ふだんの読書とはまったく違う作業」を通して、目からウロコが何枚か落ちるといいですね。