彼女は優しくノーと言った


N館さんちのセイヨウフウチョウソウ(西洋風蝶草, Cleome or Spider plant, Cleome spinosa


あるお宅の前を通りかかったとき、庭で風蝶草が風に揺れていた。今まで気づかなかった。丁度玄関から出てきたN館夫人に風蝶草を指差しながら声をかけた。

「あのー、その花の写真を一枚撮らせてもらえますか?」
「どうぞ」N館夫人は笑顔で答えた。
「綺麗な花ですね」
「この姿がとても気に入ってるの」
「いいですね。ちょっと撮らせてください」
「あら、まあ、そんなに近づけて、、」
「はい、こうして撮ると、花の色が綺麗に写るんです。全体もこうして撮りますけど。ご覧になって下さい。背景が色々と写り込んでしまって、花の美しさが際立たないでしょう。でも、こうやって近づけて撮ると、どうですか。目で見ているときの印象とあまり違わない印象でしょう?」私はちょっと引いて撮った写真と花弁に触れるほど近づけて撮った写真をモニターで見せながら、説明した。
「まあ、本当ね。でも、全体が写っているのも悪くないわ」
「そうですね。今度、両方をプリントしてお持ちします」
「そう、楽しみだわ」

最近の私は、背景をできるだけ排除するために、クロースアップした花の写真が美しいと思い込んでいた。良かれと思って、それをN館夫人に強要しかけた。だが、彼女は優しくノーと言った。「全体が写っているのも悪くないわ」ハッとさせられた。彼女にとっては花だけでなくその全体の姿が、そしてさらに背景に写り込んだものもまた大切なものなのだ。

ちなみに、我が家の風蝶草は花がすべて落ちた。