サバイバー(SURVIVOR)小森さん

小森さんちの前を通りかかったら、わら縄の大玉が二個重ねて置いてあった。また何か作るつもりだろうか、と思いながら、シャッターの上がったガレージを覗くと、腰を下ろして何やら作業している小森さんの姿があった。声をかけて尋ねると、なんと、もう、冬囲いの準備だという。家の横壁には大量の竹が立て掛けてあった。小森さんは作業を中断してガレージから出てきて話を始めた。今朝は昨日のインディアナ・ジョーンズ風とは違う黒いキャップを被っていた。以前作業中に被っていたやつだ。毎日違う帽子を被るのだろうか、それともその日の気分で変えるのだろうか、それとも作業用とそれ以外という風に分けているのだろうか、聞くのを忘れたが、いずれにせよ、今朝の帽子は小森さんの生きざまにぴったりのロゴタイプが入っていて非常に感心した。「SURVIVOR」。その下には「Never stop Challenge / Force / Courage and Strength」とある。これはいうまでもなく結果的な「生き残り」ではなく、どんな状況下でも諦めない勇気と強さという生き残る力を持った者というほどの意味。実際に小森さんなら、どんな時代でもどんな社会になってもパッとやるべきこと、やりたいことを見つけて、次々とそれらを「形」にしていくことを楽しみながら愉快に生き残ることができるだろう。



これは二年前の冬に撮影した小森さんちの冬囲いのデザイン(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20071125/1195962266


小森さんの話を聞いてまた驚いた。「冬囲い」と言っても、自宅の庭の植木の分だけではないのだ。なんと、町内の「年寄りたち」(小森さんはそう表現する。ご本人もすでにあの廃止されるらしい「後期高齢者」であることを公言してはばからないのであるが、とてもそうは見えないバイタリティーの持ち主である)20数件分を請け負っているという。もう4年以上になる。夏には町内のあちらこちらの家で庭木の剪定をする「出張中」の小森さんの姿を見かけた。つまり、小森さんは町内のお年寄りの家の庭木世話係をかって出ているのだった。最初は近所の数軒だったが、その腕の確かさ、仕事の質の高さから評判が評判を呼んだらしく、隣の町内からも依頼の電話がかかってくるようになった。気がついたら20数軒のお得意さんが出来たというわけだった。その広がり方は分かるような気がした。小森さんの仕事の腕前の良さは自宅の庭木の剪定や冬囲いの仕方にもよく表われている。単に機械的に切ったり、囲ったりするだけではないのだ。その場にふさわしい「形」にデザインする精神がちょっとした工夫として発揮されるのである。それが基本的な確実な仕事により一層の魅力を与える。小森さんは無意識の優れたデザイナーでもあるのだった。小森さん自身はあくまでボランタリーな精神で無償で行うつもりが、相手はそれでは納得せず、材料費プラスαのお礼を必ずしてくれるという。当然だろう。「いやあ、それだけの腕があれば、立派な商売になりますね」「そんなんじゃねえんだ。好きでやってるだけだ」……



昨日撮影した小森さんとごみパト隊員との協議の様子。昨日はインディアナ・ジョーンズ風ファッションだった。


その後、話題は件のゴミ問題に移ったが、札幌市のごみパトロール隊員たちの迅速な対応によって、最も悪質なゴミ捨て事件は解決の見通しが立ったと満足な様子だった。その話の中で小森さんは「トラブル」という単語を強調して使っていた。このような町内の問題を余計な「トラブル」を避けつつ解決するにはどうしたらいいか。そのためには自分は決して直接に口や手を出さず、そうするときっと「トラブル」になるから、ごみパト隊員たちのような「第三者」に仲裁に入ってもらうことが一番とのことだった。こうして、朝の十分ほどの間に私は小森さんのサバイバル術の一端に触れることができた。