時の狭間7:イギリス海岸




函館を出発した白鳥号が木古内を過ぎて、いよいよ津軽海峡青函トンネルに近づいたあたりで、通路を通り過ぎようとした車内販売のカートの後ろに置かれた小さなバスケットの中に「イギリス海岸」という素敵なネーミングの林檎入りのパウンドケーキを見つけて、思わず買った。通路側の座席からは窓の外の景色がよく見えなかったので、トンネルを通過する前も通過した後も、頻繁にデッキに行ってはそこの窓から外を眺めたり、写真を撮ったりしていた。それで車内販売係の二人の若い娘さんと何度も顔を合わせているうちに仲良くなって、記念写真を撮ったりもした。とても気立てがよく、ノリのいい二人だった。二人に宮澤賢治が好きかどうか聞くのを忘れた。いつか宮澤賢治の「イギリス海岸」まで足をのばしてみたい、彼の地質学的想像力に倣って「百万年昔の海の渚」を歩いてみたい。でも、今、白鳥号が走っているこの海岸線は百万年先にはどうなっているだろう、もしその頃にはもう海岸ではなかったとしたら、そしてもしそのときまだ人間が生き残っていたら、そこを「百万年昔の海の渚」として見るだろうか、、などと変なことを思ったのだった。


参照

「宮澤賢治 イギリス海岸」(青空文庫)