女と男

お糸さんとお国さんの一緒の寝床に高下駄のような感じの箱枕がちゃんと二ツならんで、お糸さんの赤い長襦袢が、蒲団の上に投げ出されてあった。私はまるで男のような気持ちで、その赤い長襦袢をいつまでも見ていた。しまい湯をつかっている二人の若い女は笑い声一つたてないでピチャピチャ湯音をたてている。あの白い生毛のあるお糸さんの美しい手にふれてみたい気がする。私はすっかり男になりきった気持ちで、赤い長襦袢を着たお糸さんを愛していた。沈黙った女は花のようにやさしい匂いを遠くまで運んで来るものだ。泪のにじんだ目をとじて、まぶしい燈火に私は顔をそむけた。(林芙美子『放浪記』141頁〜142頁)


涙がこぼれそう(馬場俊英), 4:58


およそ80年前に、恋に破れ、生活に追われ、食うや食わずの日々を送り、毎日のように涙を流すひとりの女(林芙美子)の日記を読みながら、現代のひとりの男が歌う「涙がこぼれそう」という歌がしきりに脳裏に浮んだ。女はあるときには男になり、ある女を「愛す」。男はまるで女のように女に甘え、涙をこぼしそうになる。女のなかにも男は住み、男のなかにも女は住む。

ちなみに、「その後の世界」はこんな。


ただ君を待つ(馬場俊英), 5:12