誤配愉快

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かねがね書くことの根は日記と手紙にあると思ってきた。そしてこのような公開を前提とした日記や手紙のようなエントリーを連ねるブログの場合、狙った相手には必ずしも届かずに、思わぬ人に届いたりするところがまたとても面白いと感じてきた。先日、手紙仕様で書いたエントリーをはじめとして姜信子さんの「旅」に寄せる日記をいくつか書いたら、ユーラシア旅行社が発行・発売している稀少な雑誌『風の旅人』の編集長・佐伯剛さんから便りがあって、姜信子さんの文章が掲載されたバックナンバーを送っていただくという思いがけない出来事があった。佐伯剛さんはユーラシア旅行社の専務取締役も兼ねた得体の知れない人物である。『風の旅人』には毎号テーマに沿った氏の溌剌としたメッセージが載っていて、時には長文の精緻な写真論まで載っているほど、優れた書き手でもある。専務で編集長で書き手? 一体何者? そんな見ず知らずの佐伯剛さんは、2004年の7号で、「姜信子様」と題した手紙仕様の『ノレ・ノスタルギーヤ』を紹介する文章を書いていたのだ! どんなテクストも見かけはどうあれ、誰かに向けて書かれた「手紙」であるという「真実」は忘れられがちだ。それは同じように忘れられがちな、どんな人生も見かけはどうあれ、「旅」であるという「真実」とつながっているような気がする。そのことを思い出そうよ。そんな声が『風の旅人』各号からは色んな風の音のように聴こえてくる。佐伯さんが旅行社と雑誌を通してやろうとしていること、やっていることは、佐伯さんにとっての「旅」であるだろうし、私にとっては、このような手紙のいわば誤配によって生まれる僥倖のような出会いを含めて、ブログを続けることじたいが「旅」なのだと改めて思った次第である。佐伯さん、ありがとうございました。



『風の旅人』──人や地球を見つめる日本発の本格的グラフ文化誌