冷蔵庫の中

人の旅は、だれかをさがしもとめる外への彷徨のようでいて、ふと気がつけば、おのれの魂の在りかを手さぐりし内へ内へともぐる終わりない縦の道ゆきなのである。そのことに気づかないかぎり、私はただ思念のトーラス(円環面)上を過去の忘却とねつ造をくりかえしながらハツカネズミのように死ぬまでめぐりめぐるだけなのだ。

 辺見庸「水の透視画法」(「室蘭民報」2010年6月26日)


そのことに気づいてもなお、私は夢幻のトーラス上で偽作の記憶を生きるに過ぎないのかもしれない。