明るい陽射しの中を二人はぴったりと寄り添って歩いてきた。奥さんはご主人の腕につかまっていた。奥さんには脳梗塞の軽い後遺症がある。ご主人は小柄な奥さんの傘になっているように見えた。K夫妻は私に気づくと深々と頭を下げた。「先日は写真をどうもありがとうございました」とご主人が満面の笑顔で言った。「もう嬉しくて飾ってあるのよ」と奥さんは言った。そして慌ててハンドバックを開けて財布を取り出し、お礼をしたいと言い出した。私はいつものように、丁重にお断りした。二人は再び明るい陽射しの中をぴったりと寄り添って歩いていった。先日、戦時中の話を奥さんからいろいろと伺ったが、ご主人は過去のことは一言も自ら語ろうとはしなかった。奥さんは眼を輝かせて満州、新京時代の美しい思い出話を聞かせてくれた。その言葉からは体験を伝えられる、共有できるという素直な喜びさえ感じられた。奥さんの天真爛漫さが眩しかった。それをご主人は奥さんを包み込むように微笑みながら横で黙って聞いていた。私がすこし水を向けても、ご主人の方は過去のことは一言も語らなかった。それがかえって、容易には伝えられない、語れない体験をしたに違いないことを感じさせた。ご主人はその柔らかい表情の下に冷たく重たい石があるような印象を私の中に残したのだった。