罪と罰、視線が絡み合う先に、サウダージ

地球の裏側からある男がやって来る。この世に生まれてきたことを原罪のように呪う自分を自分の中に飼い続けてきた男だ。そんな悪魔と消耗戦を戦っている男だ。宿命としか言いようがない。本当はどこだって構わない。所詮、心次第。どこだって同じだ。結局は自分で自分に決着をつける、罰するしかない。そのくらいの自由は手放してはならないはずだ。その男は、少しの光を恐れ、闇の中にしか安住できない魂が写っているような写真を撮り始めた。そんな写真が撮り続けられるのはあの町だと思い切ったのだろう。あの町に骨を埋める覚悟を決めたのは、そんな理由からかもしれない。自分が生まれてきた理由、存在理由の糸の端っこを写真の中に掴みかけたその男がその糸をどう手繰り寄せて、眩い光に溢れ、悲哀に満ちた色に染まった生と死のロンド、サウダージの中に、別れた女房や息子や飼い犬たちもろとも、大胆に入って行くかを私は見たい。


その男は「ちょっと思い出に浸りたいだけ」と敢えて軽い言葉をメールに書いて寄越したが、それはきっと二度と繰り返さない墓参りのようなもんだろうと直観した。ノスタルジーからではない。そして自分が今立つ<場所>に焦点を合わせるために、この国にちょっとだけやって来る。


実際に会えるかどうかは微妙なところだが、実際に会う前から出会いは始まっていて、実際に出会ったときにはすでに別れが始まっている。そんなもんだろう。だから、実際に会えなくてもいい。でも実際に会えれば、それはそれでいい。実際に会ったからといってお互いに失うものはもちろんないし、得るものもないかもしれない。せめて一緒にウマいもんでも食えればいい。もしかしたら、そのときお互いの視線が絡み合い。一瞬相手の目のなかに自分のまだ知らない自分の姿が映るかもしれない。そしたら、その姿に乾杯しようじゃないか。ねえ? サウダージ

視線が絡み合うのは一瞬でしかないが無言の言葉は行き交う。

 白線の書かれた長い廊下を歩く。(『南無の日記』2006-06-23)