お薦めの一冊:『食とワインのふらんす探検隊』

食とワインのふらんす探検隊 (ポシェット)

食とワインのふらんす探検隊 (ポシェット)


思いがけず、興味深い本に出会った。札幌の出版社ファベルの新書シリーズ「ポシェット」の一冊。パリに暮らして10年以上になる工藤瞳さんと鵜野幸恵さんの共著になるいわば本物のフランスの食とワインに出会う旅の記録である。フランス、パリとか、食やワインというと、すぐに「グルメ志向」や「ブーム便乗」といった浮ついたイメージを浮かべる向きもあるかもしれないが、本書はそういった傾向とは無縁の「本物」志向である。本書は日本ではあまり知られていない土臭く複雑で一筋縄ではいかない混沌としたフランスという国の風土や酒食の習慣の根っこにまで届くような痛快な視線に貫かれている。本書は日本に生まれ育ちしみついた舌の記憶が、フランスの食や酒との出会いを通して豊かに書き換えられて行く刺激的な過程として読むこともできる。異質な味覚を排除するのではなく、それを慣れ親しんだ味覚に統合していく過程。言葉を話すための一つの器官としての舌は、料理や酒を味わう器官でもある。日本語で想像しうる世界だけよりも、フランス語によって想像しうる世界も持つことができれば、それだけ生きる世界は豊かになる。同じことは酒食の味覚によって捉えられる世界についても言えるだろう。生きる世界は異国語を通してだけでなく、異国の味覚を通しても豊かになる。本書は二部構成になっている。前半は「フランスの『食』を知る12のエピソード」と題して12の食材がフランスの風土、歴史、文化を踏まえて要領よく紹介される。後半は「オリジナルレシピ&ワイン編」と題してフランスの食材とワインを見事に使いこなした和風料理のレシピが紹介される。個人的には前半では「ロマネスコ」と呼ばれるフラクタル幾何学の概念を体現したような驚くべきカリフラワーの一種に惹かれた。後半では牛乳とフランスパンと白ワインを使った「石狩ミルクパン鍋」に惹かれた。