マティスの白い鳩

ブレッソン(Henri Cartier-Bresson, 1908–2004)のポートレイト写真集に、背もたれを軽く倒した椅子に深く腰掛けてとても寛いだ様子で白い鳩をデッサンする晩年のマティス(Henri Matisse, 1869–1954)の姿をとらえた写真がある。右手の窓から外光がたっぷりと入る部屋には大小の鳥籠が三つ見える。手前の鳥籠の上では、まるでモデルの順番を待つかのように三羽の白い鳩が待機している。四羽の白い鳩と暮らすマティス。非常に印象的なのは、マティスが左手で白い鳩を鷲掴みにしているところである。鳩の体温と鼓動が伝わってきそうな写真である。ああ、そうしてマティスは白い鳩の命の形を手にしていたのか。