本という単位の消息



カミュの手帖 1935‐1959


紙媒体だろうが、電子媒体だろうが、そもそも「本」という単位にたいする執着は弱かったのだが、ここ数年でそれもすっかり壊れたと感じていたのに、ごく稀に中身は別にして惚れ惚れするような作りの本に出会うことがあって、それはそれで愉快だ。最近は戦時下の日記を中心に、古今東西の日記や紀行を読み漁っているのだが、そんななかで、昔断片的に読んだはずのカミュの手帖の全訳版を手にして、昔の恋人に再会したようにドキドキしたから、笑っちゃう。カミュAlbert Camus, 1913–1960)の生真面目な性格が手に取るように分かる中身だが、彼が師と仰いだグルニエが頻出する。『孤島』を読みたくなる。ニーチェドストエフスキーも頻出する。読みたくはならない。カミュは1960年、友人のミシェル・ガリマール(ガストン・ガリマールの甥)が運転する車でルールマランからパリに向かう途中、ヨンヌ県ヴィルブルヴァンでタイヤがパンクし、立ち木に衝突し事故死した。享年46歳。まだ若造だったんだと、ふと思う。そんな偉そうな五十がらみの親爺は、我が儘三昧の「本」を作って死にたいと思っていたりする。実はその計画はちゃくちゃくとは言えないが、ぼちぼち進んではいる。出来なくてもいいかといういい加減な塩梅で。