ある日、岩内町で









先日、久しぶりに訪れた岩内町北海道電力泊原子力発電所の3機が湾を隔ててはっきりと目視できる至近距離にあることに驚いていた。直線距離で5km余。原子力ムラ語で「調整運転」とやらをしていた3号機が、なし崩し的に「営業運転」に移行したのは8月17日だった。3号機のプルサーマル計画に関するシンポジウムにおけるいわゆる「やらせメール問題」が公表されたのは8月26日だった。かりに、日本列島のすべての原発が停止し、廃炉になったとしても、放射性廃棄物の処分の問題を含めて、膨大な負担が半永久的に子々孫々に残される。愚かなことだ。どんな小さな選択も、七世代後のことまで考えて決断するといういにしえの人たちは偉かったなあ。そんなことをぼんやりと思いながら、岩内の街中を車で流していて、古い映画館とたばこ屋が目にとまった。映画館はすでに廃炉、いや廃館されていた。映画館衰退と原発依存を強めてきた社会の時間を巻き戻したくなる。たばこ屋はかろうじて営業運転していたが、店内にはメノウ(瑪瑙, agate) の原石をはじめとする石が所狭しと飾られていて、しかも壁には「愛石の友」なる雑誌のバックナンバー数十冊がこちらに表紙を向けて並んでいて、店内に足を一歩踏み入れた瞬間、そこがたばこ屋であることを忘れるほどの衝撃を受けた。「この石は、、、」と思わず声に出した途端に、店主の阿部さんの石に関するマシンガン・トークが始まった。飾ってある石は商品ではなく、趣味で採集したもの。その日も今金町に採取に行ってきたばかりだと言う。一階の店舗だけでなく、二階も石で溢れているんだと言って阿部さんは笑った。たばこ屋の店主というより、まさしく「愛石家」、ほとんど石の専門家だった。メノウの研磨技術のことなど、阿部さんの話は詳細で非常に面白かった。岩内町はこんなに原発に近いのに、当然のことながら、泊村のようにゴージャスな施設はひとつも見られなかった。


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