月蝕を眺めながら、ある詩人の月蝕の詩の一節を思い出していた。彼は月蝕、皆既月蝕だったらしいが、の観察から「くろき炎」という、影や闇の負のイメージを反転させる強烈なイメージを言葉に託したのだった。どんな心境が、そんな大袈裟なイメージを生んだのだろうか、あらためて興味がわいた。
月の底より
わきいづる、
くろき炎は
ときのまに、
千尺の上に
もえあがり。
伊良子清白「巌間の白百合」(明治33[1900]年)より、伊良子正監修/平出隆編集『伊良子清白全集 第1巻|詩歌篇』(岩波書店、2003年)所収。