耳の奥の石

新年早々、雪かき時の無理な動きが原因でひどい腰痛に見舞われて一週間ほど寝込んだ。それが治ったと思ったら、次はA型インフルエンザに罹患してまた一週間ほど寝込んだ。それが治ったと思ったら、ある日の朝、寝起きにめまいに襲われた。しばらくすれば治るだろうと高を括っていたが、一日中ふらつきと車酔いのような軽い吐き気を催す状態が続き、翌日になっても治まらず、脳神経外科を受診した。脳のMRI検査では脳には異常は見られず、「良性発作性頭位めまい症」と診断された。担当医師によれば、内耳の耳石器の耳石(直径0.01mmで1万粒あると言われる)が多数剥がれて、三半規管に入り、耳石の塊になると、頭を動かすことでそれが動いてめまいを感じるようになるのだという。特効薬はなく、安静にして自然治癒力に任せるしかないという。脳に原因がないことが分かり一安心した私は、耳の奥の石としばらく付き合うことになった。四日目にめまいは治った。めまいのない状態がいかに快適なものか身に染みた。ところが、それは三日しか続かなかった。八日目の寝起きに同じ種類のめまいに襲われ、以前と同じような状態に再び陥った。二日間車酔い状態が続いた。十一日目には治ったかに思えたが、十二日目の朝に三度目のめまいに襲われた。ふらつきながら起床して、着替えて、洗顔、歯磨きを終え、瓶・缶・ペットボトルのゴミ出しをした。ゴミステーションまでの行き来ではまさしく酔っ払いのようにふらついている自分が可笑しかった。耳の奥で小さな石が踊っている。それに合わせて俺も踊ろう。そんな酔狂な思いが勝ったのか、いつの間にかめまいは消えていた。