クルミのある急な坂道


急なアスファルトの坂道に覆い被さるように枝を伸ばしたテウチグルミ(手打胡桃)の木は実をたくさんつけていた。夏の晴れた日には強い陽射しをさえぎって涼やかな蔭を作っていた。殺風景この上ない町のなかで味わいのある表情を見せる数少ない場所のひとつだった。その蔭のなかに立って、葉のよく繁った樹を見上げ、実が生っている様子を眺めたり、たまたま通りかかった顔見知りのおばあさんと笹団子の話をしたことなどを思い出す。しかし、坂道を覆う枝は、危険を理由に剪定隊によってバッサリとやられるのは時間の問題であるとも思っていた。今朝、その時がやってきた。一瞬目を疑った。