小さな星と短剣


鳥を探しに


小さな星と短剣から成る風変わりな本に出会った。




本書では001から131まで、見出しにアステリスク(*)の付された章と短剣符(†)が付された章が交互に続く。*001,†001……*131,†131という構成である。アステリスクも短剣符も脚注を表すのに用いられる約物(やくもの)である。その意味では本書は、脚注だけから成る本であるといえる。*の付された章は主に「祖父」が遺した記録の再現、†の付された章は主に「私」の記憶の再現である。


遠い過去と近い過去、二つの過去が「現在」においてごく自然に交錯するように書かれている。本書は、おそらく「人生」というその全体を見渡すことのできない大きな謎への脚注として構想されたのだろう。丹念に綴られていく記録と記憶は、「現在」なるものを、小さな切断を無数に含みつつ変容しつづける豊穣な記憶として浮き彫りにしているように感じられる。


著者がアステリスクと短剣符をただ用いるだけでなく、明確に使い分けた理由は必ずしも明らかではないが、ギリシャ語からラテン語に入った「星」を意味する「aster」の指小形に由来するアステリスクは、正に暗闇に瞬く小さな星のように、遠い過去へ旅する者にとっての道標とみなされているのかもしれない。他方、短剣符と言えば、聖歌の楽譜の中の小休止を示すのに用いられたのが起源であるとされ、現在では引用先などの脚注の存在を示すために用いられることが多いが、短剣が十字架のようにも見えることから、西欧では墓と見立てて、死者にまつわる情報を注釈する際に用いられることもあることに照らしてみれば、著者は、短剣符に、「私」が変容していく過程における「小さな死」という意味を込めたのかもしれない。