ノラや


外出から戻ると、東向きのベランダの踏み台の上でノラが昼寝していた。忘れた頃にいつもやってくる。我が家を訪れても餌がもらえるわけではないから、たぶんノラにとってそこは安心して休める場所のひとつなのだろう。「朝からずっといるのよ」と妻。「煮干しでもやろうかな」。小指大の煮干しを三匹手の平にのせて、南向きの玄関から表に出てベランダの方に回ったが、ノラはもういなかった。手の平に煮干しの匂いが残った。