三脚を担いだ男


真駒内曙(あけぼの)公園前の交差点で信号待ちしているときだった。雪深い公園から大きなリュックを背負い、三脚を担いだ男が勢いよく飛び出して来た。三脚には7、80センチはあろうかという望遠レンズが装着されたカメラが取り付けられたままだった。たった今公園内で撮影を終えたばかりの雰囲気が、満足そうな表情からも伝わってきた。なんと三脚を握る左手は素手だった。随分扱いに慣れた様子だった。かなり目立つ格好には違いないが、なぜか私の目にはごく自然な姿に映った。公園の中で一体何を撮ってきたのだろう。あるいは撮ろうとしたのだろう。冬木立や凍結した精進川ではなさそうだ。公園のどこかの樹に珍しい野鳥でも飛来することを知っているのかもしれないな。話がしてみたかった。カメラマンは左右にすばやく目をやってから、驚くほど軽快な足どりで私の目の前の横断歩道を渡り、地下鉄駅の方へ向かった。おっと、こちらの信号が青になった。