ナイトハイキングみっともない体験記

札幌市観光文化局主催、Sports Club Sapporo主管の企画、「ナイトハイキング 真駒内(まこまない)〜定山渓(じょうざんけい)」に参加した。以下は長距離ウォーキングど素人の私の非常にみっともない体験記である。実際、まったく余裕がなかった。
真駒内駅前にある1972年札幌冬期オリンピック時に設置された時計塔)
8月19日午前零時10分すぎ、札幌市の地下鉄南北線の南の終着駅である真駒内駅前から、総勢60人の一行は定山渓を目指して暗闇の中を出発した。天候は薄曇り。気温は22℃。雲の隙間から星が見える。体力、体調ともに一抹の不安があったものの、ハイキングにとっては良好のコンディション。およそ5時間の行程中、三カ所で休憩も予定されている、それにこの企画のコンセプトは「満天の星空を眺めながら、のんびりハイキング」だ。随行する6名のスタッフもプロフェッショナルで頼りがいのある人たちばかりだし、いざとなったら、専用車にリタイアすることもできる。何の心配もない。集まった見知らぬ参加者の多くは私よりも高齢の方々で、体力的には私のほうが劣るとは思えない。余裕、余裕。
(どんどん置いてきぼりにされていく)
(まだ余裕)
ところが、出発して10分もたたない内に、後方の位置につけた私のいる小集団は、先頭集団からみるみるうちに遅れをとり始めた。先頭集団はやけにペースが速い。こんな速さで20kmを歩くのか?まさか、最初だけだろう。そのうちみんなペースが落ちるはずだ。しかし、20分たっても、30分たってもペースは落ちるどころか、むしろ少しずつ上がっていくようにさえ感じられた。1時間もたたない内に、「リタイア」の文字が頭の中の電光掲示板に点滅し始めた。やばい、体中が、脳が、このハイペースの歩行運動に猛烈に抵抗している。尿意も催し始めた。お腹も少し緩い感じだ。やばい、やばい。それでも、なんとか最初の休憩所までの約1時間半の行程をクリアすることはできた。約20分の休憩時間に、小便を済ませ、水分と栄養の補給をしたら、体の中から少し力が湧いてきたように感じた。なんとか最後まで持ちそうだ。
(余裕はどんどんなくなっていく)
その時点で、「満天の星空を眺めながら、のんびりハイキング」というコンセプトに私は疑いを持ち始めていた。少なくとも日頃運動不足気味の私にとっては、「のんびりハイキング」どころか、むしろ「修業」、スポーツ・トレーニングにちかい空気、モードが大半の参加者の間には共有されているような気さえした。それほど、参加者の大半の方々は日頃から歩き慣れている健脚ぞろいだったのだ。甘かった、と少し反省した。もちろん、私は文字通りの「のんびりハイキング」を味わうつもりはなかった。石狩川水系豊平川をその源流に向かって遡行しながら、定山渓をひとつのポイントとする札幌の南の「体」を感じとりたかったのだった。そしてそのためには「のんびり」のペースは最適のはずだった。ところが、そんな私の密かな期待はのっけから木っ端みじんに吹き飛ばされた恰好だった。歩くだけでほとんど精一杯の状態が続いた。最初の休憩所で気を取り戻した私だったが、そこを出発してすぐに再びハイペースに辟易した。それでも、不思議と体は自分をそのペースに最適化しようとフル稼働してくれて、なんとか第二休憩所(ここはトイレなしの短時間だった)、そして第三休憩所まで辿り着いた。ヘロヘロの私はつねにほとんど最後尾にいた。私レベルの参加者は他に三名いたが、スタッフは前半から「私たち」を暖かく励まし続け、見守るように伴走ならぬ伴歩してくれた。有難かった。
(第三休憩所から東の空を望む)
第三休憩所には、お茶とアンパンとバナナが用意されていた。美味しかった。時刻は午前三時半。東の空が白み始めていた。歩行中は汗ばんでいたが、その頃には気温はかなり下がり、休憩中に汗が冷え、震えがきた。気温は12℃だとあるスタッフが言っていた。用意してあったシャツを一枚重ね着した。すでに疲労物質、乳酸が溜まりに溜まって重たい脚。足首、膝、股関節も痛み始めた。足裏と脚全体を自分でマッサージしてから、消炎剤をスプレーした。第三休憩所を出発してからは、東の空がみるみる朝焼けに染まっていった。美しかった。



ところが、実はその朝焼けの写真も含め全部で100枚ほど撮影した写真のほとんどは手ぶれかピンぼけという無惨な状態だった。撮影中は気づかなかった。トホホ。だいたい、私にとってはかなりのハイ・ペースだったから、立ち止まって構えて撮影する暇がなかった。後半は立ち止まったら二度と歩けなくなりそうなほど、両足は棒になり、股関節の痛みは極まった。そしてそんな疲労困憊の中、いつの間にかカメラのフォーカスのスイッチがAFではなくMFになっていた!のだった。首からぶら下げていたカメラが段々重たく感じられるようになり、肩にかけてみたり、また首にかけ戻したりを繰り返していたからだろう。情けない。撮影しようとした景観は心の目に焼き付けたとはいえ、もったいない。

  • Night Hiking, 12sec.


これは第三休憩所を出て、およそ30分後、午前4時くらいに、差し掛かったかなり長い、630mだったかな、真新しい八剣山トンネルの中で力を振り絞って撮影した弱音を吐く私。

八剣山トンネルを抜けしばらく行くと、最後の関門である短い錦トンネル(錦隊道)が見えてくる。それを抜けると定山渓だ。しかし、そこから目的地の渓流荘(けいりゅうそう)まではまだ30分はかかるのだった。錦トンネルを抜けたときには午前4時半を少し回ってた。足首と股関節の痛みは笑いたくなるほどだった。痛みをこらえながら、それでもシャッターを押し続け、目的地まであと15分くらいのところで、ようやくフォーカスがMFになっていることに気づいた。疲労は一瞬増したが、そのときちょうど錦橋に差し掛かった。左右には渓谷が延びていた。思わず立ち止まり欄干にしっかり固定して撮影したのが下の二枚。豊平川だ。


それまで何度か橋を渡るたびに、豊平川の気配を感じてはいたが、最後の最後にその姿をはっきりと見ることができて嬉しかった。

渓流荘に到着したのは午前5時10分だった。温泉につかり(足は冷水でしばらく冷やさなければならないほど熱をもっていた)、缶ビールをぐびっと飲み、朝食弁当を頂き、スタッフの方々や他の参加者の方々と歓談した。午前7時、専用バスで渓流荘を発った。帰宅したのは午前7時半。車なら片道30分で行ける距離の所、札幌市の南端に位置する渓谷、定山渓に温泉郷はある。歩くと5時間。脚の痛みさえなければ、長いとは決して思わない道だ。夜間だったせいでよく見ることができなかったが是非見たい「濃そうな」ポイントが沢山あった。明るい時間にまた歩いてみたい。