弔問

4年生になったばかりのゼミ生のH君の人生が急展開した。彼のお父様が亡くなられた。50代半ばの早すぎる、しかも突然の死だった。日本海に面した港町で水産加工会社を営む彼の家を弔問した。お母様にお悔やみを述べ、遺影のお父様と対面した。大丈夫ですよ、息子さんはしっかりしていますから安心してください、と冥福を祈った。H君を前にお母様とH君の将来について話した。幼い頃から家業を継ぐこと、生まれ故郷で死ぬまで生きることを心に決め、今日までその意志を曲げずにしっかりと生きてきたH君を褒めた。

H君の家ではお父様が可愛がっておられたという12歳の「若(ワカ)」という名前の中型の日本犬が玄関先で最初に出迎えてくれた。毎朝近くの燈台までの海岸の道をワカと散歩するのがお父様の日課だった。お父様が亡くなられてからワカはにわかに元気がなくなったという。「分かるんですね」とH君はつぶやいた。

H君の家をおいとまして、海岸沿いの道をしばらく車を走らせてから、ふと思い立って車を止めて、後にしてきた港町を振り返った。