体を左右に/軽く揺らすとよい

前略。

僕らが一番頭に来るのは、上から目線で、あるいは権威を笠に着て、「……はよい/悪い」といった価値判断や「……をすべき/すべきではない/する必要はない」といった規範に関する主張を平気でする輩の無神経さですね。

そんなこと言って、三上先生こそ、いつも偉そうに説教モードで語っているじゃないかと反感を覚えた学生さんもいるかもしれませんが、それは半分誤解です。半分当っているのは、たしかに私が教室でしつこく繰り返す「講義以前の」主張にはある種の価値判断と規範が含まれているからです。しかし半分誤っているのは、私の場合は、むしろ下から目線の、愛情から発した励ましのメッセージ以外の何ものでもないからです。そんなこと言ったって……、と反論が飛んできそうですが、この続きは教室で。

さて、今回はさまざまな主張のタイプの中でも一番厄介であると同時に見ようによっては一番面白くもある価値判断や規範をめぐる主張をどう捌(さば)くかというトレーニングに入ります。ワクワクするでしょ。私の見るところおそらく野矢さんも一種のワクワク感を籠めてこう書いています。

複数の対立しあう評価が存在するとき、そのどれがもっとも説得力をもつかはやっかいな問題であり、その人の価値観・規範意識に大きく依存することになる。そして、最後は決断の問題となるだろう。

 (野矢茂樹『新版 論理トレーニング』93頁)

どうですか。ワクワクしてきましたか。「やっかいな問題」や「決断の問題」を怖れてはいけません(規範!)。むしろ、それらをこそ楽しむべきです(規範!)。なぜなら、人生とはそれらの連続に他ならないと思われるからです。その辺のコツをつかむ心構えとして相応しいと思われる、こんな軽妙で素敵な「手引きのようなもの」(規範!)があります。

逆らってはいけない
合わさってもならない
体を左右に
軽く揺らすとよい

 (井上陽水奥田民生「手引きのようなもの」)

この続きも教室で。