杜鵑草



ホトトギス(杜鵑草, Toad lilies, Tricyrtis hirta)、2009年10月13日撮影。


10月13日に撮影した葉牡丹(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20091013/p1)と一緒に同じ鉢に植えられていたこの花の名前がしばらく分からなかった。藤原新也『東京漂流』の下に引用する件を読んだとき、ピンと来た。



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 私は笹蜘蛛の巣を払いながら草を分け、枝を分け、三脚を立て、四×五カメラをのぞいた。大きなピントグラスに焦点を結んだ「家」は逆さになっていた。その家の下方に映った青空は、その時、不意にその「家」が落ちていく奈落に反転したように思える。
 数枚のシャッターを押して、その場を立ち去ろうとした時、脚に触れた可憐なものがある。
 ……ほととぎすの花であった。
 その白地に土紫色の斑点のあるいくつかの小さな花は庭の隅に隠れるようにしてひっそりと息づいていた。
 私は草蔭に伏せるその小さな紫色の花を見て、なぜかは知らぬが軽いショックを受けた。ふと、そこに人の魂の残り火を見たような気がしたのだ。(288頁)

藤原は、80年代日本の家庭の空洞化、家族の崩壊を象徴する「金属バット両親撲殺事件」の現場となった「家」の庭で息子に殺された母親が植えたホトトギスの花に出会ったのだった。