カラスについて

最近、原生林に沿った道でカラスに襲われた人の話をたてつづけに聞いた。今は繁殖期の後半、雛を育てる時期に当たっていて、親鳥たちは非常に神経質になり、巣に近づく人間を本能的に警戒して、威嚇したり攻撃したりすることがあるという。怖いのでしばらくその道は歩かないことにした人もいる。不思議なことに、それまで毎朝その道を歩いている私は襲われたことがなかった。思うに、毎朝写真を撮りながら散歩をしているおかげで、町内の多くの人にとってだけでなく、多くのカラスにとっても、毎朝小さな黒い箱(カメラ)を持ち歩いている私は警戒の対象から外れる馴染みの存在なのかもしれない。実際に散歩で出会うカラスたちが私の行動をよく観察していることを私は知っている。ところが、一昨日、その同じ道に面した今は亡き塚本さんの畑でしゃがみこんでカボチャの黄色の花をああでもないこうでもないと撮っているとき、カラスに襲われた。というか、軽く威嚇された。一羽のカラスが背後から頭上を掠めて飛び去ったのだ。カラスにとっては私も本能的な警戒の対象として例外ではなかったかと思いかけたが、威嚇するにしてはずいぶん穏やかなやり方だったし、その後威嚇されることはなかった。カラスは威嚇しようとした標的がいつも小さな黒い箱を持ち歩いている馴染みの無害な私であることに気づいたのかもしれない。誤っているかもしれないが、繁殖期といえども、カラスは本能オンリーで行動するとは限らないのではないか、というのが私の推測である。私はいつものように原生林の草木の変化を観察しながら、小さな黒い箱をあちらこちらに向けながら、原生林に沿った道を往復した。