夫婦喧嘩

女房は蜘蛛が大嫌いである。私は蚊が大嫌いである。今年は例年に比べ蚊が少ない。私は嬉しい。だが、蚊が少ないのは今年はわが家の周囲に蜘蛛が目立って多いからである。女房からは蜘蛛を見つけたら退治してくれるように頼まれていて、「分かった」と返事だけはしているが、実は私は写真を撮るだけで退治はしていない。しかも私は大嫌いな蚊を捕食してくれる蜘蛛たちを「クモちゃん」と愛情籠めて呼んだりする。それが女房には気に食わない。札幌は昨日までは連日の猛暑で夜中まで家中の窓を網戸を下ろして開け放っていた。窓を閉めるには網戸を上げなければならない。長年の癖で蚊が入って来ないように慎重になるのだが、今年は蚊が少ないお陰であっさりと網戸を上げてすぐに窓を閉められる。私にとっては快適この上ない。だが女房にとってはなぜ蚊が少ないのかがひっかかる。「クモちゃんのお陰だよ」という私の言葉に、女房は鳥肌が立ち、身の毛もよだつような嫌悪を露にする。「一匹の蜘蛛より、百匹の蚊の方がましよ!」「冗談だろ? 一匹の蚊より、百匹の蜘蛛の方がましだ!」「何言ってんのよ。馬鹿じゃないの!」「お前こそ、馬鹿じゃないか!」以下略。「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」とはよく言ったものである。しかも、立派な生命形態である蜘蛛にも蚊にも失礼この上ない話である。女房は蜘蛛と蜘蛛の巣の美しさを知らない。私は蚊の美しさを知らないのかもしれない。