ポートレイトと植物

真のポートレイトとは、その人物がいっさいの行為も、むしろ本人を遠ざけるいっさいの表情も呈さずにいるものだ。

  ジャン=リュック・ナンシー『肖像の眼差し』


なるほど。だとしたら、行為からも表情からも自由になる瞬間に、人はまるで植物のような存在になるのだろうか。

注意深く見渡すと、私たちの身のまわりには、じつにたくさんの種類の植物がある。でも、私たちはどうしても、動物のほうに気をとられがちだ。植物が動物といちばん違うのは、動けないこと。でも、動けない植物は、動ける動物以上に、この地球上で繁栄している。植物はじつは「動けない」のではなく、「動かない」生き方で成功したのだ。環境を変えるのではなく、環境に合わせて体の大きさや形を変えること、枝が折れたり葉が取れたりしても簡単に再生できること……。「動かない」植物の合理的な生存戦略……。

  「植物の軸と情報」特定領域研究班編『植物の生存戦略


だとしたら、ポートレイトとは、その人物の

心の奥底の一輪の花

  藤原新也『花音女』


を写しているといえるかもしれない。