薔薇の記憶

「贈り物ですか?」
「いいえ」
「では簡単な包装でいいですね?」
「はい」


散歩の帰り道、ふらりと立ち寄った花屋で一本三百円の濃いピンクの薔薇を買った。ところが、写真を撮りながら持ち歩いている内に、どこかで落としてしまった。家に着くまで気づかなかった。くるくる巻きの包装紙だけが残った。家人はあきれていた。慌てて家を飛び出して、時間を巻き戻すようにして、歩いた道を逆に辿ってみたが、結局見つからなかった。諦めた。きっと誰かが拾ったのだろう。あの薔薇は今頃どこでどうしているだろうか。濃いピンクの花のイメージが頭から離れない。落としていなかったら、こんなに気にしなかっただろうと思うと、ちょっと不思議な気持ちになる。