記憶

誰もいないグラウンド

高平小学校、室蘭市

苫小牧駅のアナウンス

詩人の山本博道さんのお話では、今から半世紀あまり前の国鉄時代の苫小牧駅には「と〜ま〜こまい、と〜ま〜こまい」という不思議なニュアンスのアナウンスが流れていたらしい。おそらく、まだ車内放送の設備がなかった当時は、乗客に到着駅を知らせるアナウ…

菊水の円形歩道橋、新宿の円形信号機

菊水の円形歩道橋 今日は半日ドライバーだった。札幌市の中心街を東に抜けて、国道12号線を白石、大谷地方面に向かってしばらく下ると、菊水6-3で信号につかまった。信号待ちしている間、周囲を観察した。そこは六差路交差点で、しかも、頭上には巨大な円形…

ベリンジャーの思い出

スーパーの酒売り場で安ワインを物色していたら、ベリンジャーのラベルが目にとまり、一昔前の滞米中の夢のような一日の記憶が電光石火のごとく蘇った。2004年の晩秋のある日のこと、研究所で親しくなったTさんと彼のガールフレンドNさんの粋な計らいでナ…

肩甲骨 scapulae

翼が強調された天使の図に惹かれて「山々」という名のチリ産のワインを買った。翼を持つ天使のイメージに惹かれる理由には、鳥に惹かれる理由と繋がる、肩甲骨(scapulae, the shoulder blades)にまつわる記憶の細い糸のような道がある気がしていた。 グア…

薔薇の記憶

「贈り物ですか?」 「いいえ」 「では簡単な包装でいいですね?」 「はい」 散歩の帰り道、ふらりと立ち寄った花屋で一本三百円の濃いピンクの薔薇を買った。ところが、写真を撮りながら持ち歩いている内に、どこかで落としてしまった。家に着くまで気づか…

記憶の葉

マルメロ(榲桲, Quince, Marmelo[pol.], Cydonia oblonga) 写真は10月20日に齋藤さんの直売所で二週間ほど前から店番をしていた娘さんから五個二百円で買った葉付きのマルメロの果実の最後の一個。二日後の22日に娘さんから、齋藤さん(お母さん)は体調を…

城塞と砲門、工藤さんとの会話

今朝、霙まじりの雨風の中、校舎から少し離れた所にある駐車場から校舎に向かう途中で警備員の工藤さんと出会い、歩きながら、宮本常一やソローの話をした。工藤さんはソローが『コンコード川とメリマック川の一週間』の中で語った「ジョウサイとホウモン」…

ガロのズリ山の思い出

小学5年(1969年)の終わりから中学2年(1972年)の終わりまでの約三年間を札幌から北に50kmほどのところにある美唄(びばい)市で暮らした。かつて美唄には三菱、三井をはじめとして大小の炭鉱があり、50年代に最盛期を迎えたが、その後は衰退の一途を辿…

サーカス小屋でアシカを調教する紫色の目をした娘

例えばの話。もし私がある土地を訪れ、そこで体験したことを書いた文章が、後年そこに暮らす人の目にとまり、え? これが私の暮らす土地のことか、という新鮮な驚きを与えると同時に、その人も知らない土地の意外な歴史や、忘れかけていた過去の暮らしの細部…

九九の話から

塵劫記 (岩波文庫)作者: 吉田光由,大矢真一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1977/10/17メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 13回この商品を含むブログ (6件) を見る 山内数学教室の山内先生から、先日私が『塵劫記』に言寄せてちょっと触れた九九の諳(そら…

記憶、その沈黙の川を遡って

この文章を書いていて、窓の外がふと明るくなったと思ったら、外灯が灯った瞬間だった。 記憶はとんでもない蘇り方をすることがあって、それは無意識をも手懐けようとする記憶使いの美崎薫さんなら「発見」と呼ぶのだろうが、例えばこんなことがあった。十年…

胎児の変身劇に生命記憶をたどる

文字のかたち(字体、書体、書風)、そして文字というかたちの「故郷」を彷徨っていると、かならず、生命のかたち、そして生命というかたちの「原郷」に逢着する。そしてそこでかならず「記憶」の問題にもぶつかる。 三木成夫先生がやってきた。 「胎児の世…

追憶、失われることの意味

追憶(reminiscence)*1とは一般に遠い過去の記憶を現在に喚び出すことと説明される。しかし、人間の場合には、機械的な記憶と違って、喚び出すということは、記憶が全体的に「更新」されることを意味する。つまり現在という時点における編集が施される。その…