お節介




ブーランジュリー・マルゼルブ(Boulangerie Malesherbes)


おや? 店先の木のベンチに飾ってある小さな丸いパンが四個から五個に増えている。若い人は(実は若くない私も)「四(し)」は音が「死」に通じるので忌み避けるということはほとんどないだろうから、お節介な年配客にでも指摘されて、五個にしたのだろうか、、。店舗と厨房は壁で仕切られているが、大きなガラス窓を通して奥の厨房で黙々と生地を捏ねる若いご主人の姿が見える。彼は手前の店舗の方にはまず顔を出さない。店舗は若い奥さんが取り仕切っている。今朝は、いもチーズパン、チャバッタ(バターや牛乳を使わずに、オリーブオイルだけを練り込んだ生地を長時間発酵させて焼いたモチモチ感のあるイタリア風のパン)、クロワッサン、バゲットを買った。「いつの間にか、五個に増えたね」「よく気がつかれました。実は、一個落ちて割れてしまって、新しく二個作ったんですが、二個とも置いてみたんです」「そうだったの。一個増えただけで、ずいぶん印象が変わったよ。賑やかになったというか、リズム感が出たというか」「そうなんです」「カシオペヤ座のように並べてみるのも面白いかもしれないね。Wは逆さにしたらマルゼルブのMにも見えるし」「それはいいアイデアですね」……お節介な年配客とは私のことだった。