手向け花


ヒナギク(雛菊, Daisy, Bellis perennis



Robert Frank, The lines of my hand, Panteon Books, 1989


最近は、読んだ本、見た写真を、次々と埋葬するように忘れることを心がけている。それでも執拗に蘇ってくる語句やイメージがある。本に関しては山本博道の詩集の中の「苦い蔓」が思い出したくない過去をぞろぞろと引き連れて蘇るが、それについては別の機会に語ることにしたい。写真に関しては、ロバート・フランクが1975年に撮影した風に揺れるマーガレットのイメージが、ちょうど今花盛りのヒナギクを見るたびに、振り払っても振り払っても、蘇ってくる。その写真には「POUR LA FILLE(娘に)」と手書きの文字が記されている。手向け花としてのマーガレットの写真。写真を撮った前年、1974年の12月23日に、ロバート・フランクは娘のアンドレアを飛行機事故で喪っている(享年21)。マーガレットが咲き乱れ風に揺れる野原にアンドレアを見ている視線を感じる。