手術室で

手術室と言っても、白いカーテンで仕切られた窓に面した一角に簡易ベッドと小さな木製のテーブルとスタンド型の照明の他には床にプラスチック製の籠が置かれているだけの空間だった。上半身、裸になってお待ちください。寒ければ、そこのタオルをお使いください。看護師は床の籠を指差した。先生は直前の手術が延びていますので、もう少しお待ちください。看護師がそう言い置いてカーテンの向こう側に消えてから、もう二十分くらいは経っただろうか。少し肌寒く感じて、籠に用意してあった大判のタオルを肩からマントのように羽織り、いつの間にか脇腹に出来た瘤を指先でさすっては、まもなく対面することになるその本体のことを色々と想像していた。皮膚の下に大きめの小豆のようなコリコリと固い触感の物が埋まっている・・・

 

専門的には「粉瘤、表皮囊腫、アテローム」などと呼ぶ、右脇腹にできた一センチ大の瘤を切除する手術を受けた。担当医師は局部麻酔の後、三センチほど皮膚を切開して瘤の本体を摘出し、開いた皮膚を縫合した。前後の消毒等の処置を含めても、わずか十五分ほどの簡単な手術だった。身支度を済ませてから瘤の本体を見せてもらった。看護師は私の目の前で、こんな感じですと言って、白い脂肪に覆われた歪な球体がホルマリン漬けされた短い試験管のような透明のプラスチック容器を軽く揺すってみせた。磨りガラスの窓から射す柔らかい光の中で、小豆のイメージからは程遠い白い塊は揺れていた。