樹への愛 Auguste Varkalis:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、4月、100日目。


Day 100: Jonas Mekas
Tuesday April. 10th, 2007
4 min. 45 sec.

Erica and Auguste
declare their love
to a tree on
Hudson Street
New York City --

エリカとオーグストは
街路樹に
愛を宣言する
ニューヨークの
ハドソン・ストリートで

夜の舗道で、一人の若い女性が街路樹に抱きついている。背の高い男性が別の街路樹に近づき、戯れるように揺らし始める。そこにその女性も合流し、さらに通りすがりの二人の若い女性が近づく。カメラも近づく。その男は、今まで二度、2007-02-13 音楽の根源Auguste Varkalis2007-03-29 my melancholy fate, Zoë Lundに登場した、メカスと同郷の映像作家、画家、音楽家のオーグスト(Auguste Varkalis)。最初の若い女性はオーグストの恋人らしきエリカ。

エリカとオーグストは一緒に街路樹を愛撫する。頬を寄せ、何度もキスをする。時々二人もキスをする。通りすがりの若い女性の一人もその輪の中に入り、興奮気味に「自然を愛しているの」と語る。カメラの背後から伸びるメカスの親指を彼女は握っている。メカスもまた、皆知らんぷりして通り過ぎる街路樹たちへの思いを語る。「故郷を失った樹よ。樹は考えてるんだ。樹は知ってるんだ。」通りすがりの二人の女性は手を振りながらその場を後にする。

エリカとオーグストとカメラは舗道を行く。夜の街は、車の往来も激しく、舗道を足早に行く人も少なくない。そして街は煌々と明るい。外灯、ネオンサイン、色んな店の照明。三人は舗道に面した壁が全面ガラス張りの明るく広いスポーツ・ジムのようなビリヤード店の前を通る。十台以上はあるビリヤード台はすべて客でうまっている。「美しい文明だ、文明だ」とメカスの揶揄する声。「文明だ、文明だ」。カメラは一際明るい街角を捉え続ける。メカスとオーグストはリトアニア語で何やら話している。文明の象徴である大都市の舗道で、同じように故郷を追われた人間と樹が交流する。そこを新たな故郷にするしかないとでも言うようにして。

メカスの植物に対する深い想いは2007-01-25「植物の神秘」でも触れたが、人間が気づくまで、どんな残虐な仕打ちにも無言で耐え忍ぶ植物の姿には、同じ生命としての非常に高度な「知性」のような何かがたしかに感じられる。それをちゃんと認識するには植物を観察される対象としてではなく、観察している人間もそこに巻き込まれている人間と植物を分けることが意味をなさない世界を語る言葉、深い言葉が必要なのだろう。

今日で、このメカスの365日映画はちょうど100日目。メカスに乾杯。