テラ・プラタ(黒土)、数万年の時の露光

レヴィ=ストロースの庭

レヴィ=ストロースの庭

美しい写真集『レヴィ = ストロースの庭』には、51葉の印象深い写真の狭間に、レヴィ = ストロースの思想の核心へと「ミツバチの飛び去る速度」(098頁)で誘う三つの短いエッセイがそっと置かれている。

最初のエッセイ「庭の思想」の末尾にこんな「明るい」エピソードが添えられている。

 最近では、テラ・プラタと呼ばれる黒土が注目を集めている。森林のなかに見つかる肥沃な土壌で、ルーペで覗くと土器の細かい破片が混じっている。森に入った人間が石器時代の永い時間をかけて残したこの土は、ふつうの土壌よりも植物の生育をはるかに進むので、大都市の園芸業者が買いにくるほどだという。きっとサンパウロリオデジャネイロで、ガーデニングに使われているのだろう。いつかイパネマの海岸のテラスの陰に、神話の木が生えてくるかもしれない。
(034頁)

まるで「黒土」が数万年かけて露光されたフィルムにほかならず、イパネマの海岸のテラスに射し込む現代の「光」がそのフィルムに焼き付けられた「神話の木」の像を浮かび上がらせるような錯覚に捕われた。